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Webコラム一灯

さらば総理

2008/09/02

   いやな予感がしました。夕食が済んでくつろいでいた午後8時20分、ニュース・メールに「福田康夫首相が午後9時半から記者会見をする」という緊急報が入りました。そんな時刻に設定されたこと自体が異例であり、これまでの経験からしても「重大発表があるに違いない」と思わざるを得ません。案の定、臨時国会召集を目前にして突如、「新しい体制の下、政策実現を図らなければならない」と“退陣表明”をしたのです。

 ∋  例によって抑揚のない言葉が続きます。舞台仕立ての割りに盛り上がらない問答の末、総理が気色ばむ場面となりました。「(会見が)人ごとのように聞こえる」と質問者に指摘されると、「私は自分を客観的にみることはできる。あなたとは違う」とおっしゃる。鬱積した思いがつい吐き出されたのでしょうか。

   長い間の習慣で出勤前、朝刊は静岡新聞をじっくり読んでから全国紙の見出しを拾います。出社してから再度、主要紙を読み比べます。コラムなどは特にていねいに目を通します。首相辞任のビッグニュースが分かっていますから、普段より余計に時間を確保したのですが、意外にすらすら進んでゆきます。寝耳に水、記者の戸惑いと、開いた口が塞がらない、評論のしようもないとの失望が同居していて、出てくるフレーズは大同小異です。政権放り出し、民主への恨み節、異常異例、迷走混迷、政治空白……。この内閣は一体何だったのか、政治史に位置を占めることがあるのだろうか。

   ねじれ国会、衆院での多数と参院での少数。これも選挙を経た上での民意の在りようなのでしょう。だから低支持率がボディーブローのごとくに効いてきます。その意味では、首相の思惑がどうあれ民意は重く、今回の退場劇につながったのでした。もともと淡白な性格なのか、しゃにむに奪い取った地位ではないのか、あっさりギブアップしたようですが、為政者は民意によって常に監視されている結果といえます。

   ロシアではプーチン氏が実権を手放すことなく大統領から首相へと形を変えて中枢にとどまっています。国のビジョンにかかわろうという強固な意志と執念が透けて見えます。米大統領選では、候補になるために何年ものキャンペーンに身をさらし、批判を受けプライバシーを暴かれます。そうして、権力への渇望が研ぎ澄まされてゆくのです。こうして選ばれた政治家と、時の空気で何となく就任し何となく辞任するような御仁が渡り合ってゆけるとはとても思えません。

   総理2年の使い捨て、と揶揄する言い方が政界にあったように記憶します。それどころか前任者に続いて1年の短命、しかも自ら放り出す。次期の本命と目される麻生氏は、2代の総理から「辞めたい」と打ち明けられる巡り合わせ。「かわいそうなくらい苦労している」と愚痴った挙げ句、「あとはよろしく」なのです。「最高権力者」は、石にかじりついてでも維持する魅力ある地位では既にないのでしょう。ただ、「黒帯を締めれば柔道は強くなる」と言ったのもどこぞの政治家だったはずです。与党も野党も覇気が感じられません。この機会に、似合わなくてもいいから黒帯を締めたらどうでしょう。

   (鮟鱇)




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