○…サッカー日本代表のセルビア代表戦翌日、新聞朝刊各紙は〝岡田ジャパン〟に「惨敗」「完敗」の見出しをとった。ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会メンバー発表前の最後の試合。「いろんなオプションを試す機会」と位置付け、岡田武史監督は大学生を含む国内組のみでチームを編成し、先発も新布陣で臨んだ。結果は0-3。「厳しい現実、不安なW杯」。静岡新聞は「惨敗」の見出しに、こう付け加えた。W杯代表の発表は5月中旬、大会開幕は6月11日、日本の初戦は3日後の14日、カメルーンが相手だ。
○…セルビアは主力の大半が欧州の強豪クラブに所属する。今回の来日メンバーは早くから国内組に絞り、「あわよくば本大会代表入り」を狙わせる作戦が奏功したといえる。「控え組」の相手に完敗したことで惨敗の言葉も生んだが、果たして日本は戦前から格上だったのだろうか。国際サッカー連盟(FIFA)ランキングは日本の45位に対してセルビアは15位。監督はスタンドから全体を把握したいのかベンチ入りせず、代行が指揮を執り、後半にはGKも交代するなど、日本にとっては屈辱的な出来事もあったが、だからといって予想外の結果だったとはいえない。
○…W杯への道は長年、アジアの壁、韓国の壁に跳ね返されてきた日本。今回で4大会連続4度目の出場で、大舞台は4年に1度、当たり前のように巡るかのような思いが浸透している。しかし、言うまでもないが、決勝トーナメント(ベスト16)に進出した前々回の日韓大会を除き、日本は1勝もしていない。W杯のピッチは夢ではなくなったが、本番での戦いとなれば、まだまだ赤ん坊だ。2勝した日韓大会の活躍は開催国としてアジア予選免除もあり、韓国の3位決定戦進出の大活躍とともに、今では幻のような気さえする。
○…「惨敗」の見出しに、「少し前にも見たな」と思った。2月中旬の東アジア選手権最終日の韓国戦だった。静岡新聞の見出しは「日本 先見えぬ惨敗」。1-3の敗戦で大会初優勝はおろか、中国、韓国の後じんを拝して3位に後退。「W杯まで4カ月…手詰まり」。合宿の成果は乏しく、合宿以降の収穫もない。その後の連載「迷走 南アへの道」も厳しい現実に終始した。3月のアジア・カップ最終予選最終戦。岡崎慎司選手(清水エスパルス)の先制ヘッドでバーレーンを下して1位通過を決めたことで、「迷走の不安」は忘れかけられていただけではないか。
○…そんな折、日本サッカー協会の原博実技術委員長(強化担当)の話を聞く機会に恵まれた。国際マッチメーク委員も務める原氏は、南アフリカ大会直前合宿で行う練習試合の対戦カードまで決まり、「南アまでに私のやるべきことは、ほぼ終わった」と切り出した。W杯初のアフリカ開催とはいえ、第2戦開催地のダーバン以外は内陸部の高地だ。また、冬に向かう南半球で、かなり寒い。このため、直前合宿はスイスのアルペンリゾートを選んだ。
○…1998年のフランス大会以来の指揮となる岡田監督は、一貫して「ベスト4」を目標に掲げる。原氏は「代表監督のノルマは(W杯)予選を突破するかどうか。その点でいえば、岡田監督はノルマを果たした」と話し、ベスト4という「監督の問いかけは本気」とした上で、実現可能な目標か否かは「立場上、慎みたい」と述べるにとどまった。「環境も含めて、どんな大会になるのか読みにくい」とし、「南アフリカは各国とも気軽に行って練習ができる国ではないし、日韓大会のトルコ(3位)、韓国(4位)のような可能性はある」とも指摘した。
○…しかし、原氏が強調したのはW杯の結果そのものではなかった。「大会が終わって、勝った、負けた、の評価がされるのは仕方がない。ただ、代表チームだけ強くすることはできない。国内レベルの向上こそが代表チームの強化に通じる」。Jリーグ人気に陰りが見えて久しく、景気の影響も免れない。ストイコビッチ、ジーコ、ドゥンガ、ブッフバルトといったスター選手が招かれ、間近のプレーを通じた指導でチームメートはもとより、リーグ全体のレベルアップに寄与した。「今のJのレベルが当時と比べて上がっているとは思えない」。原氏は言い切った。
○…抱える一番の問題点に原氏は、19~21歳の伸び悩みを挙げた。昨年の世界ユースで日本は予選敗退、韓国はベスト8。今の高校生は日本サッカー協会のプリンスリーグもでき、多くの公式戦を経験する環境が整っている。だが、プロ入り後は、なかなか出場機会に恵まれない。原氏は浦和レッズ監督時代を振り返り、「(初年度からレギュラー起用の)小野伸二(現清水エスパルス、清水商高出)は例外中の例外。選手は実戦の中で伸びる。練習試合では駄目」。約半数を占める大卒Jリーガーも「大半はJ1を2、3年経験した後、J2に移籍し、1年程度でクビ」。この年代にいかに実戦を身に付けさせるか、技術委員長という職制にとどまらず「個人的な感想でももっとも重要だと思う」。
○…日本のサッカーをワンランク上げるためには、「学校体育との協力を真剣に考えていかなければならない」と語気を強めた。Jリーグ発足18年。「日本のプロサッカーが存続できるのか心配なところがある」と心情を明かし、「今ではプロがあるのが当たり前と思われるが、日本リーグは27年で終わった。Jリーグが未来永劫(えいごう)あると信じるのはいかがか」。引退選手が地域に入っていけるシステムづくりなど、原氏は将来構想の一端を披露した。「プロリーグがあること」「W杯に出ること」ともに「当たり前」は幻想だということを再認識すべきなのだろう。
(4/12 掛井 一也)
※本欄は今回で終わります。4年3カ月、延べ206回にわたり、つたないコラムご愛読ありがとうございました。