○…「小野伸二のパスで高原がゴール! 沼津-三島で優勝だ」「ドイツに三島の花を咲かせてください」-。サッカーのワールドカップ(W杯)日本代表FW高原直泰選手(26)の出身地、三島市の市役所ロビー。応援メッセージが寄せ書きできる「日の丸」は、コーナー開設から2日後には、余白がないほどのメッセージで埋まっていた。国際大会を迎えるたび、代表選手の郷里では、選手の存在がさらに身近となり、大会への思い入れや親近感も増す。W杯や五輪など、大会の規模が大きくなるほど、その傾向は強い。
○…決戦の地ドイツに入り、開幕に備える代表チーム。福島・Jヴィレッジで行われた国内最終合宿は、土、日曜に2万人前後、平日でも1万人近いファンが詰め掛け、選手の一挙手一投足に大きな歓声が上がった。「あらためて国民の期待の大きさを実感した」。多くの選手がインタビューに答えた。フェンスまで近寄り、ファンサービスに努める選手もいた。サインをもらった子供の驚きと笑顔。見学の1等席を確保するため、未明に到着したという家族連れ。人垣に阻まれ何も見えないとぼやく女性-。まさに「フィーバー」だった。
○…ゴールラッシュとなった高校生との2度の練習試合。川口能活選手が「異様な雰囲気」と戸惑いを漏らしたのも分かる気がする。高校生にも大きな声援が飛び、さながら「お祭り」のよう。実戦を通じて約束事の確認を徹底するのが本来の狙いだっただろう。しかし、詰め掛けた観客や対戦した高校生向けのファンサービスという意味合いも強く思えた。五輪代表などと違い、W杯代表選手には代表決定後、出身地などに帰郷する時間的余裕がない。だからという訳ではないだろうが、Jヴィレッジ合宿はさながら、日本という「古里」による盛大な「壮行会」でもあった。
○…Jヴィレッジ・フィーバーに4年前を思った。磐田市をベースキャンプ地とした当時の日本チームの様子が、今回の半分でも開かれていたら。練習は一般非公開、報道陣への公開も冒頭15分程度。市民とのふれあいは、スポーツ交流の里ゆめりあで1度だけ行われた小中学生との交流会だけ。「鉄のカーテン」を張るのに好都合との観点でジュビロスタジアム(現ヤマハスタジアム)が練習の主会場となった。同スタジアムや、森町中央体育館を借り切った日本サッカー協会の報道センター「JAMPS」の周辺に集ったファンは、練習や取材対応に訪れる選手を移動のバス越しにひと目でも見られたら幸いだった。
○…「選手はやるべきことと役割を十分果たしてくれた」。Jヴィレッジ合宿を打ち上げたジーコ監督は破顔で語った。福島まで駆け付けてくれたファン、遠路ドイツに赴くサポーター、映像を通じて茶の間で活躍を祈る多くの人たち、すべての人への感謝と決意を自覚させる8日間に思えた。時を同じくして、ジーコ監督の母国で、大会連覇を狙うブラジルチームのスイス・キャンプの様子が伝えられた。「スター軍団」は満員の観客に笑顔でミニゲームを公開し、宿舎の前でサインを求めるファンに丁寧に応じていた。ピッチの中でも外でも「プロ」である。あらためて痛切に感じた。
○…4年前の代表チームに、高原選手の姿はなかった。「いつもいつも走ってたね。何回も何回も。『走ろう走ろう』って言っていたね。はつね公園で。今も君は走っている」。高原選手が通った保育園の職員らが今回、「日の丸」に寄せた一文だ。前回大会は直前の欧州遠征に伴う発病でドクターストップが掛かった。殊更「4年前」をドラマに仕立てられるのは本意でないとは思う。しかし、「やっとW杯のスタートラインに立てた」「出るだけでは満足できない」と語る彼だからこそ、見守る人たちには「4年越し」の期待と夢がある。渡独する家族に託される「日の丸」に寄せられた思いは、Jヴィレッジでの壮行フィーバーよりも、静かだが重い。
(5/29 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。