○…ジュビロ磐田常勝期の素地を築いたドゥンガ氏が、母国ブラジルの代表監督に就任した。ワールドカップ(W杯)アメリカ大会の優勝キャプテン。1995年から4シーズン、磐田に在籍した。磐田で現役を終えた後も、非常勤で磐田のテクニカルアドバイザーを務めた。英雄的な「セレソン(ブラジル代表)」の一人とはいえ、監督経験のない42歳の大抜擢。世界最強の「カナリア軍団」復活にかけたブラジル・サッカー連盟の決断の理由は、かつて磐田で見せた「闘志」というドゥンガ・イズムの注入にほかならない。
○…白雪姫に登場する7人の小人の一人、おこりん坊のドゥンガが愛称となり、本名のように親しまれてきた。磐田時代は試合中であろうとチームメートを容赦なく怒鳴りつけ、プレーが続いていても構わず当の選手に駆け寄り、身振り手振りを交えて厳しく指導した。まるで大人が子供をしかるかのような姿は「ドゥンガ学校」と称され、頼もしげに見守るサポーターの笑いも誘った。W杯連覇を狙ったブラジルは史上最強と呼ばれながら、ドイツ大会は準々決勝敗退の“辛酸”をなめた。他国もせん望する卓越した個人技を誇る「セレソン」再出発のカギに、指揮官の「精神力」を求めたことが特筆される。
○…「ドゥンガ学校」で真っ先に思い出されるのは、現在はセレッソ大阪スタッフで桃山学院大コーチの古賀琢磨氏だ。「確かに『何もこんなところで言わなくてもいいのに』という気持ちもありましたが、当然の指摘でしたし、チームを思ってのこと。勝負強さとは何かを教えてくれた」。Jリーグ監督の条件でもある日本サッカー協会のS級ライセンスを取得した今、指導者としてもドゥンガ氏の影響は大きいという。「戦う姿勢、闘志は最低条件、ベースだと思う。日本代表監督に就任するオシム氏の言葉ではないが、いい選手ばかりを集めても駄目。メンタルあってこその技術のセレソンだと思う」
○…リズミカルに軽く相手をいなし、広いシュートレンジから強烈な弾道がゴールを襲う。世界中のサッカーファンがブラジルに抱く華麗かつ強じんなイメージと現実は、高い個人能力の集合体に違いない。あれだけの面子がそろえば監督がいなくても…、そんな錯覚さえ抱かせてしまう。確かにドイツ大会は選手交代の遅れや戦術の不徹底といったベンチワークの不備が指摘された。だが、それ以上にブラジルサッカー連盟が強烈なリーダーシップの欠如を敗因と分析したことに注目したい。
○…ドイツ大会敗退の直後から、ブラジル国内では「ドゥンガのような選手がいなかったから」という声が噴出した。パレイラ前監督も「彼のような特長ある選手がいなかった」と指摘し、絶対的リーダーの不在を認めた。ドゥンガ氏の監督就任を同国サッカー連盟のテイシェイラ会長は「強い気持ちを持った代表監督を求めるファンの願いにぴったりの選択」と評し、同連盟の公式サイトに「選手時代と同じ決意を代表に持ち込みたい。気持ちの激しさとやる気、勝つ意思がなければ、セレソンのユニホームは着られない」というドゥンガ新監督の抱負が載った。ドイツ大会のブラジル代表の戦いぶりにドゥンガ氏自身、じくじくたる思いがあったことは想像に難くない。
○…勝って当たり前、負ければ非難の矢面に立つ。指揮官は厳しいファンとマスコミの視線にさらされる。強国であればあるほど内容以上に結果が絶対条件となる。元名選手の伯楽ぶりに期待が高まる分、結果が伴わなかった時にうず巻く“裏切り”に近い念は、われわれの想像をはるかに超えるだろう。ドゥンガ氏の就任はもちろん、次回のW杯南アフリカ大会での巻き返しが視野にある。周囲の雑音に耳を貸さない「唯我独尊」の面もあったドゥンガ氏のこと、4年後まで代表監督でいてくれると信じたい。かつての「鬼軍曹」は「鬼将軍」になり、W杯日韓大会のブラジル優勝監督であるスコラリ氏以来、磐田関係者2人目の栄冠をつかんでほしい。
(8/7 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。