○…いやはや、さすがというべきか。32年ぶり9度目の夏甲子園で、静岡商高が初戦無敗記録を更新した。「木製バット時代」を思い起こさせる堅実な野球で、強打の滋賀・八幡商に完勝。88回の歴史を数える大会に帰るや、いきなり1988年の広島商高以来となる犠打9のタイ記録をマーク。四球、2盗、送りバント、スクイズの無安打で挙げた先制点は、強打全盛の「金属バット」の時代にあって新鮮味すら覚えた。
○…「楽しんでできた」という2年生エース大野健介投手は、静岡大会の準決勝、決勝で見せた3安打完封の笑顔とは微妙に違って見えた。甲子園の印象を聞かれて「焼きそばのにおい」は殊勝だが、直球の切れ、低めの変化球の制球とも、静岡大会に比べて持続しなかった印象が強い。それでも、強打全盛に対抗して投手も豪腕主流の時代、小気味良い投球の小兵登場は、そのあどけない笑顔も手伝い、各紙が絶賛しても当然だった。
○…八幡商は出場全選手中、最高の地方大会打率6割8分8厘をたたき出した4番岩口二郎選手をはじめ、滋賀大会チーム打率4割3分4厘を誇った。静岡大会終盤の投球内容ほどの驚きはなかった大野投手だが、強力打線に6安打2失点は勝利の立役者の1人に違いない。しかし、見城喜哉監督の「ヒーローがいない、うちらしい野球ができた」の言葉通りに、全員でつかんだ勝利といえるだろう。
○…準々決勝から決勝まで3試合で17安打の打線が一気に15安打。9選手中、5選手が複数安打を放ち、好機を確実にものにする言葉通りの小刻みな加点。守っては今大会最初の無失策を記録した。アルプス席から内野席まで埋めた大応援団とともに、静岡大会同様、攻守にわたりチーム一丸で、勝利の校歌「波諧調(メロディー)…」を響かせた。
○…「大野におんぶにだっこだった。甲子園では大野を楽にしてやりたい」。主将の増井裕哉捕手が静岡大会優勝時に答えた“公約”通りの試合運び。必殺パンチの派手さはないが、ボディーブローの積み重ねでダメ-ジを与える。32年の時を経て甲子園に帰って来た古豪は、昔日の姿そのままの「静商野球」を存分に見せつけた。
○…そんな試合巧者ぶりに、静岡商高応援席以外からも「(前回出場の)昭和40年代の高校野球を見ているようだ」の声が挙がったという。10点とられたら11点とればいいというような「打ち負かす」野球が主流となって久しい今、「静商野球」が「木製バット」時代派に懐かしく、「金属バット」時代派に新しく映ったのだろう。胸文字以外に何の装飾もないシンプルなユニホームでさえ温故知新、今風に言えば「オールドスクールでクール」なのだ。
○…静岡大会優勝で聞いたOBの言葉が印象的だった。「グラウンドで笑顔が出るなんて昔なら考えられない。『歯なんか見せるな』と鉄拳が飛んだ」「大野君ほどに小柄な生徒が投手をやりたいと言ったら、『馬鹿言うな』の一言で終わっていたはず」。機動力野球という伝統への回帰と、いまどきの子に合った伸び伸び野球の相乗効果は、旋風(せんぷう)さえ予感させる。
(8/11 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。