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2006年「スポーツコラムだんまく」

エスパルス「勝負の月」

2006/09/12

 ○…1引き分けを挟んで7連勝の清水エスパルス。休養日が明けた静岡市清水区の三保グラウンドに、ハードなタイム走に臨むイレブンがいた。走り終えては、芝に倒れ込む。用意された氷水を頭からかぶりたくとも、立ち上がるための呼吸が整わない。見ている方もつらくなったが、したたり落ちる大粒の汗の下に、程なく選手の笑顔が戻っていた。チーム再生を託されて長谷川健太監督が就任した2年前、走り終えて一目散にトイレへ駆け込む選手もいた鹿児島キャンプを重ね思っていた。


 ○…首位と勝ち点5差で4位の清水。ワールドカップ(W杯)に伴う中断後は8勝1分け1敗、堂々のリーグトップである。炎暑8月の5連戦を見据えた中断中のミニキャンプ。「山登りまでさせられた」と苦笑する選手たちは、好調の理由を「何がきっかけか分からない」と口をそろえる。ただ、とにかく労を惜しまず全員が動く。ボールのない所でも90分間よく動き続ける。分岐点のような「きっかけ」ではない。「基礎体力づくり」「スピードと動きの質の向上」という2年越しの蓄積がゆっくりと開花している。


 ○…興味深い数字がある。リーグ公式記録によると、清水の総シュート数343本は、G大阪の363本に次ぐ。平均失点は総失点17の浦和が0・77で群を抜くが、清水は1・14で2位。反則と警告の数は最少である。平均得点1・86は順位通りの4位(タイ)。競り勝ってきた軌跡が見えてくる。加えて、特筆すべきは、最近のシュート数である。ここ6試合の平均は21・7本。前後半に偏りもない。ジュビロ磐田常勝期の名波浩選手が「うちは1試合ノルマ15本」と語ったことを思い起こせば、いかに清水の数字が高いか分かる。


 ○…「自分たちのリズムでボールを動かしているから(以前とは)疲労感が違う」と言う市川大祐選手は、前節の千葉戦で4年ぶりのゴールを決めた。ワールドクラスを思わせる地をはうようなミドル弾は、「けった感触がないほど芯に当たっていた」と振り返る。「切り替えしてのアーリ-クロスなど考えもしなかった」。バルセロナ五輪陸上代表の杉本龍勇フィジカルアドバイザーは2年前の就任時、「本能で思い描いたプレーができるようにすることが理想。それが勝利に1パーセントでも貢献できれば最高」と語っていた。まさに杉本氏が理想とするプレーだった。


 ○…2年連続でJ1残留争いを経験した選手には、長谷川監督を「信じる」というより、「やるしかない」が本音だったのかもしれない。その輪に「健太イズム」の薫陶を受けた若手が、西部洋平選手いわく「すっと溶け込んだ」。開幕当初は3連敗もあった。「勝てたはず」「分けたはず」の黒星もあったが、その後に連敗はない。ズルズルと後退しない「切り替え」は、意図する戦い方が浸透しているからにほかならない。黒星に基づく「修正」は、根本的なものでなく、「やるべきこと」の再確認になっている。

 

 ○…担当記者たちが「今の清水は“普通に”強い」「今見て一番おもしろいのは清水」と称賛しようとも、選手は「まだまだ勢いの中」と慢心はない。長谷川監督は今季開幕前、「ベスト5に食い込める力をしっかり付ける」を使命とした。残り12試合と先は長いが、射程圏内である。昨季の天皇杯準優勝にも、指揮官は「常に優勝のにおい、雰囲気がするチームではない」と明言した。白星発進となった「勝負の9月」を経て、「決戦の10月」「決着の11月」となるのか。「健太エスパルス」の3年契約は、やっと半ばが過ぎたばかりだ。

(9/12 掛井 一也)

 

 「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。




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