○…体操の世界選手権が14日、デンマークで開幕する。昨年の個人総合で日本人31年ぶりの世界王者に輝いた冨田洋之選手(セントラルスポーツ)と、初出場で2位の水鳥寿思選手(徳洲会、静岡市葵区出身)に、塚原直也選手(朝日生命)のアテネ五輪団体総合の金メダリスト3人を擁する日本が、アテネ同様に28年ぶりとなる団体総合優勝に挑む。県勢のひいき目抜きでも、注目は水鳥選手だろう。着地や姿勢の減点が厳しくなった新採点にもかかわらず、9月の全日本社会人個人総合は難易度の高い演技で連覇。冨田選手らが難度を下げ、正確さで勝負したのとは対照的だった。
○…今大会は2年後の北京五輪の団体総合予選も兼ねる。アテネ五輪で復活した「体操ニッポン」は五輪連覇に向け、次回開催国のライバル中国と同じ班で演技に臨む。10要素の難度を反映した「演技価値点」と正確さを示す10点満点の「演技実施点」の合計得点で競う新採点方式で行われる初の世界選手権。北京五輪を見据えた意味でも重要な大会を前に、全日本社会人はけがを負わないようにと正確性を重視した演技構成が主流となった中、水鳥選手は一人「攻め」の姿勢を崩さなかった。
○…跳馬で全選手最高得点をマークし、鉄棒ではF難度の伸身コールマンなど離れ技を4回成功させた。優勝を報じた静岡新聞には「世界選手権で種目別のメダルも可能性がある」という本人の手応えが載った。前日にテレビで見た塚原選手の父光男氏(日本協会北京五輪強化部長、世界選手権日本選手団長)のドキュメンタリーに触発されたという。番組は塚原氏が世界初の月面宙返りを考案した歩みを紹介した。「やはり僕も守りに入ったら駄目なんだ」。応援に駆け付けた家族に漏らしたという。塚原氏が現役だった1978年大会以来の世界選手権団体総合優勝を目指す日本の主力として、画面に見入った水鳥選手の熱い思いは容易に想像できる。
○…アテネ以降、日本の、いや世界の二枚看板に君臨する冨田、水鳥両選手にとっても、北京五輪まで正念場となる後半の2年間が始まった。昨季は世界選手権をはじめ、国内主要大会も両者で優勝を分け合った。今季も世界選手権と12月のアジア大会(カタール・ドーハ)の代表選考会を兼ねた7月のNHK杯は冨田選手が優勝し、水鳥選手は2位。2カ月後の全日本社会人は水鳥選手が雪辱を果たすなど、両者の戦いが体操ニッポンをけん引する。冨田選手の後じんを拝したNHK杯で水鳥選手は、「自分が強くなって頑張ることが日本のためになる」と発言した。実直な彼らしい発言である。
○…日本の主力としてアテネ五輪を戦い、個人総合にも出場した冨田、塚原両選手と違い、アテネの水鳥選手は自ら一番不得手で、3番手不在が日本の弱点とされたつり輪の強化に励み、1種目の出場ながら団体総合優勝に大きく貢献した。いわば、成長過程で手にした金メダルであり、仲間の演技に声援を送った個人総合は、4年後の飛躍を誓う場でもあった。アテネ五輪の2年前、地元静岡で開かれた全日本選手権の跳馬で前十字じん帯を断裂したひざには、今でも固定用のボルトが入ったままだ。抜くことで練習を休むのが嫌なのだという。だが、選手生命を危ぶまれる大けがを克服した努力家という枕言葉はもう必要ない。それほどの実力者に成長した彼がいる。
○…10日閉幕した兵庫国体。体操成年男子団体の本県は、兄の静馬氏が監督を務め、弟の一輝選手、豪敏選手(ともに日体大)が主力として臨んだ。寿思選手が高校時代を過ごし、昨年国体は代表として出場した岡山県が1位、静岡県は静岡国体以来3年ぶりの表彰台となる2位。合宿地のドイツからデンマークにバスで移動中、父一夫氏(水鳥体操館館長)から国体報告を受け、「岡山も静岡も頑張ってるね。僕も頑張らなきゃ」と答えたという。一人のミスも許されない団体総合は正確な演技を求められるだろうが、個人総合、種目別ではぜひ世界が認める日本のエースとして、「攻め」の演技を大きく舞ってほしい。そして、昨年のリベンジと、吉報を心待ちにしたい。
(10/12 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。