○…「らしいな」と思い、「ようやく」とも思った。清水エスパルスのDF森岡隆三選手(31)が移籍を志願した。契約更改の条件提示を受けながら、新たな可能性を求めての申し出だった。長谷川監督は「男の決断」を尊重し、クラブも希望を受け入れた。今季は10試合の出場にとどまり、「できることなら最後までエスパルスでやっていたいと思っていた」中での決意。しかし、そこにはクラブ批判も、首脳陣批判もない。昨季まで2年連続で2部降格争いを経験した。4位躍進のリーグを終えて、自身のホームページ(HP)に書き込んだ。「選手、スタッフ、フロント、サポーターが一緒に戦うことができた」。区切りである。
○…プロ2年目の1994年、鹿島アントラーズから移籍してきた。在籍11年半でリーグ戦277試合、国際Aマッチ38試合に出場。照れくさそうに、慎重に言葉を選びながらも、取材には真しに受け答え、時に本音も垣間見せてくれた。当時のアルディレス・コーチ(2年後に監督)に才能を見出され、トルシエ・ジャパンでは守備陣のリーダーも任された。クラブ史では「移籍組」だが、「生粋のオレンジ戦士」と称しても誰にも異論はないだろう。
○…進学校としても有名な神奈川・桐蔭学園の中等部に合格した明せきさは、冷静に先を読めるリベロとしての能力にも生かされた。一対一の局面を未然に防ぐとともに、こと危険な局面になれば対人の強さも発揮してみせた。まさに「文武」「剛柔」併せ持った選手である。出場機会は減っても、人柄と持ち前のスピリットで、兄貴分としての存在感はゆるぎなかった。それはそれとして、若手も主力に成長した。相談役に甘んじるわけにはいかない。
○…友人とファッションブランドを興し、東京・原宿に店も構えた。音楽や読書の趣味にもこだわりを見せ、高級大型外車が並ぶ練習場に、「通好み」の中・小型車で乗りつけた。「エンジンの掛かりが悪くて…」。さっそうと帰路に向かうチームメートを横目に、少し鼻に掛かった独特の声でうれしそうに語った。こんな時間が取材者には貴重でもあった。長男誕生で子ぼんのうぶりを発揮し、国産のバンも購入した。サッカーとは関係のない会話から、いつしかチームのこと、自らのことに発展することも少なくなかった。
○…「森岡隆三という商品を市場に出します」。移籍リスト掲載に向け、報道陣に答えたという。先のHP書き込みには「出場機会に恵まれなかった分、感じたこと、得た経験は貴重な財産になった。もちろん悔しい気持ちも半端なくある。今後に生かしてもっともっと、いつまでも上を見続けていたいとあらためて思ったシーズンだった」ともある。「次のステップに行く時かな」。ピッチ同様、前線高くほうり込んだロングフィードの先に、どんな来季が待ち受けていのるか、楽しみにしたい。
(12/7 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。