○…「サッカーのホームタウンについて、埼玉と静岡の比較検証したい」。無料月刊誌「浦和フットボール通信」関係者が静岡を訪れたのは5月半ばだった。浦和レッズは6月23、30日の2週連続で、清水エスパルス、ジュビロ磐田とアウエー戦。それに合わせた「静岡特集」。圧倒的な観客動員数を誇る浦和の地元誌だけに、「比較」を「栄枯盛衰」にたとえれば、「栄、盛」が埼玉県、「枯、衰」は静岡県という図式の取材だろうと疑わなかった。
○…だが、比較の図式は逆だった。「なぜ、静岡はトップクラスの選手を輩出し続けるのでしょうか」「レッズでいえば、山田、小野、長谷部、鈴木、赤星しかり」。藤枝東高・服部康雄監督のインタビュー翌日に現れた同誌関係者は、“埼玉県のサッカー”の衰退を憂いた。「高校年代もそう。かつて埼玉のライバルだった静岡の背中は見えなくなってしまった」。近年の全国高校選手権の静岡県勢の成績ですら、埼玉県勢の成績に比べれば「うらやましく映る」と苦笑した。
○…生粋の浦和っ子である編集幹部は、ホームタウンとしての浦和に疑問を呈した。「レッズの浮沈がすべて」。クラブ所在地としてのホームタウンにすぎず、「サッカーどころ」という意味でのホームタウンとは違うという。「前売り完売」は当たり前、収容人員6万3000人余の埼玉スタジアムが真っ赤に埋まって、なお「静岡に学べ」と取材に赴いた。もちろん、日本リーグ三菱以来の浦和サポーターである。それでも「『レッズの浦和』だけでいいのか」。熱烈なレッズ愛の前に、埼玉県のサッカーに対する愛情が切実な思いとして伝わった。
○…最新号の表紙に大書された「宿敵 静岡」の文字。埼玉ローカルなサッカー誌の表紙を、藤枝東高の「背番号10」が飾った。特集のタイミングに選んだ静岡県内でのJリーグ連戦。日本平スタジアムで浦和が10年ぶりの白星を挙げた清水戦では、浦和サポーターの“だんまく”掲示を巡る騒動もあった。アウエー横断幕の掲示禁止エリアでの掲示が確信犯か否かは別に、先に掲示されていた清水側の横断幕を隠した行為が火に油を注いだ形ともなり、騒ぎは小競り合いにまで発展した。
○…騒ぎは試合開始後も続き、当該の場所に「フェアプレー旗」を張ることで落着した。敵地の「前売り完売」をアシストするほどに、浦和サポーターの大挙は圧倒的だ。それだけに、行動も手本であってほしい。でなければ、浦和の「ホームタウン」は褒め言葉でなく、暴れ者の街の代名詞になってしまう。「果たして君たちはサッカーが好きなのか」。創刊4号で「宿敵 静岡」を特集した浦和フットボール通信の編集者たちの思いが届いてほしい。
(6/28 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。