○…台風4号の影響で開幕が2日順延となった夏の高校野球静岡大会。開会式が中止となる前代未聞の日程変更は球児のみならず残念だったが、県下10球場で一斉開幕となった初日から多くのドラマが生まれた。浜松球場から浜松商37年ぶり初戦敗退の報が届けば、島田球場では島田商が逆転で敗れた。人気古豪の商業校の相次ぐ敗退に「まさか」の思いもよぎったが、草薙球場の静岡商はエース大野選手の1安打、15奪三振の好投で連覇へのスタートを切った。
○…さまざまな白球ドラマが繰り広げられる中、島田球場第3試合「御殿場南-森」に注目した。試合前のあいさつに向かう森ナインをマネジャーの谷口純加さん(3年)はベンチ前で見守った。登録が認められる20人に続く「背番号21」のTシャツ姿。しかし、部員は14人。しかも、全員が1、2年生。「私1人だけの最後の夏の大会、私は“何か”を期待しています」。谷口さんは大会プログラムにこう書き添えていた。
○…9回裏に3点差を追い付き、なお1打逆転サヨナラの場面まで詰め寄った。しかし、延長10回に決勝点を奪われ、谷口さんの最後の夏は終わった。「日ごろは感情をなかなか表に出してくれない(後輩たち)が、きょうは大きな声を出して戦ってくれた。そんな成長が見られただけで満足です」。弟を思う姉のような言葉がかえってきた。「最後は“逆転”までしてくれて」…。言い間違いにも気づかないほど、後輩たちが頼もしく思えたのに違いない。
○…9回表は1年生エースがライナーを顔面に受け、病院に搬送されるアクシデントもあった。その裏、先頭打者が2塁打。一死後の連続四球で塁が埋まると、谷口さんは両手を握り締め、涙をぬぐって戦況を見つめた。2死後の押し出し死球で相手エースを降板させると、2番手投手から1番打者が同点の2点適時打。続く四球で再び満塁とすると、谷口さんは祈りのポーズを崩さなかった。
○…同級生部員2人は1年の学年末に退部。昨年の秋季大会は1年生8人だけとなって参加できず、今春は他部の協力を得てようやく参加できた。新1年生の加入で晴れて夏のグラウンドに立った森ナイン。「去年の夏でマネジャーをやめようと思っていました」。部存続の危機、先輩たちの引退、同級生部員の不在、加えて8人の後輩の心もバラバラだった。それをつなぎ止めるためにも、「マネジャーさんには残ってほしかった」と松尾主将は振り返った。谷口さんを翻意させたのは、後輩たちの「自分を必要とする気持ち」だった。
○…「マネジャーさんのため、その思いだけで臨んだ試合でした。悔しいです」。松尾主将は涙を流した。谷口さんの入学と同じく森高に赴任した井芹監督(33)は、「私にとっても心の支えでした」と感謝し、声を震わせた。背番号21のTシャツは2年先輩の親が、大会前にプレゼントしてくれた。卒業生の父母も含め、3年間への慰労だったのだろう。「最後の最後で最高の感動をいただいた」。父栄史さん(55)の言葉は、選手、そして娘への謝辞だ。高校球児だった6歳上と4歳上の兄の影響で選んだマネジャーの道。「3年間続けて良かったです」。笑顔がのぞいた。
(7/17 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。