○…16年ぶりに日本で開催された世界陸上選手権。男子400メートルリレー連夜の日本記録更新や土佐礼子選手の女子マラソン銅メダルと、最終盤で日本選手の活躍も見られたが、全般的には日本の惨敗だった。ホスト国として掲げたメダル5個の目標に遠く及ばなかったからではない。期待された選手に相次いだ脚や全身の「けいれん」は、戦う以前の問題として根が深くはないか。高野進監督(吉原商高出、富士宮市出身)の困惑は想像に難くないが、原因究明と対策は急務だ。北京五輪まで1年、残された時間は長くはない。
○…日本選手の自己記録をみる限り、メダル5個の目標は背伸びをしたともいえる。地の利という見えない追い風が多分に計算されていたはずだ。しかし、「追い風」を受けるにしても、体が言うことを聞かないのでは…。トップアスリートとして、国を代表するチームの管理として、不振のメカニズム解明は待ったなしだ。男子200メートルの末続慎吾選手は2次予選敗退後に医務室で点滴を受け、男子走り高跳びの醍醐直幸選手はマットの上で苦痛に顔をゆがめた。男子棒高跳びの沢野大地選手に至っては、バーまで体を引き上げることすらできなかった。
○…「原因は分からない。調子は良かったのに」「ウォーミングアップまでは問題なかった」。本人たちもまさかのアクシデントとはいえ、偶然では済まされない。水分補給の不足や大量発汗による塩分不足なのか。それなら事前に予測できたことである。講じた対策が十分でなかったということなのか。日本陸連は通常より多めの水分やミネラル摂取を励行し、大会途中からは選手控え室に岩塩を用意し、サブトラック基地も冷房の効いた室内から室外に移したという。対策は講じていた。
○…では、自国開催という心理的圧迫だったのか。日本陸上界の“宣伝部長”を自認する男子400メートル障害の為末大選手の発案で、沢野選手や女子走り幅跳びの池田久美子選手ら日本記録保持はら大会前、メディアに再三露出した。大会PRはもとより、「陸上競技をメジャーに」という使命に燃え、小学校を巡回して競技の楽しさを伝え、都心の路上で試技も披露した。かつての「滅私奉公」にも似た悲壮感で期待を背負った時代とは違い、期待までをも楽しむ新世代の典型だった。事前にあふれた笑顔は、重圧から逃れる自己暗示ではなかったはずだ。
○…静岡県浜松市に本社を置くスズキの池田選手、男子やり投げの村上幸史選手とも不本意な結果に終わった。池田選手は暑さで集中できず、村上選手は1投目の助走で脚がけいれんした。早朝や夜間の競技設定で大会運営を配慮しながらも、湿度、気温ともに厳しいコンディションに、開幕直後は「外国勢がかわいそう」「日本勢にアドバンテージすぎるのではないか」と危ぐすらした。しかし、結果は、勝つべき人が勝ち、勝負すべき者同士が接戦を演じた。その差を自国で実感できた世界陸上の「置き土産」に感謝し、ぜひ北京に向かって成長してほしい。
(9/6 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。