○…ドイツで開かれた体操の世界選手権。静岡市出身の水鳥寿思選手(27)=徳洲会=が、日本人選手として26年ぶりに1大会4個のメダルを獲得した。国内代表選考会で得点が伸びず、当初は補欠に甘んじ、ユニバーシアードの代表に回った。しかし、鹿島丈博選手の骨折で巡った出番に、ユニバーシアードからの連戦で左ひじに残る違和感も乗りこえ、団体総合(5種目起用)、個人総合(全6種目)、種目別(2種目)をこなして快挙を成し遂げた。地元ならずとも賞賛の言葉しか見当たらない。
○…春先からの肩痛もあった世界選手権の代表選考会。ミス連発の個人総合5位に、水鳥選手は「完敗」を認めた。かろうじて代表となったユニバーシアードは、学生スポーツの祭典という印象が強い。28歳以下の年齢制限内だが、水鳥選手の姿は不思議な感じがした。しかし、日本の主将として、団体総合と個人総合、鉄棒の3冠を達成し、床運動も銀。代表選考会の完敗で後ろ向きになった自分を「もう1度引き戻すことができた」と言い、世界選手権の代替出場のチャンスには「丈ちゃん(鹿島選手)がいた想定得点を下回ったら、僕が入る意味がない」。
○…ドイツでの活躍を伝える静岡新聞の記事の中で、父一夫氏は「すごいやつ」と形容し、旅立つ前に「出番があったら、どんどんいくよ」と聞かされた逸話も披露した。水鳥選手は自身のブログに「世界選手権では補欠ですが、出場して金メダルを取るんだと思いながら現地に乗り込もうと思っています」と決意を書き込んだ。昨年の世界選手権は予選のミスで決勝に出番はなく、応援に出向いた一夫氏は「観光旅行だった」と嘆いた。昨年大会の本番と今大会代表選考会の雪辱、そしてユニバーシアードでの自信、すべてがいかに活躍のバネになったか、よく分かる。
○…団体総合で銀、個人総合と床運動、鉄棒で銅。日本人選手のメダル獲得は、床運動が16年ぶり、鉄棒は4年ぶり。メダル4個は今大会最多で、日体大時代の恩師で敬愛する日本チームの具志堅幸司監督以来だ。「教え子だけに、真似(まね)しよったな」の談話も微笑ましい具志堅監督は、「北京(五輪)に外せない選手」とまで言い切った。スペシャリスト全盛の時代にあって、エースはエースでも、水鳥選手は万能な「スペードのエース」だ。
○…父一夫氏は今回、自宅でテレビ観戦。録画放送の表彰式は本人からの国際電話を受けながら見つめた。3年前のアテネ五輪でつり輪の1種目だけの出場ながら、団体総合28年ぶりの金メダルに大きく貢献した。アテネの会場で一夫氏と母見香さんの目にたまった涙は今でも忘れられない。北京での活躍に期待したい日本人選手は多い。しかし、水鳥選手は違う。活躍を信じられる存在だ。けがに注意して、五輪会場の北京国家体育館で華麗に舞ってほしい。
(9/12 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。