○…大学生や社会人を対象にしたプロ野球新人選択会議(ドラフト)でシャンソン化粧品の黒田祐輔投手(21)=静岡高-駒大中退、岡部町出身=が阪神タイガースから4巡目で指名を受けた。「シャンソンの」とはいっても、「シャンソン社員の」である。同社に野球部はない。昨年11月に大学を中退し、年明けから母校の静岡高で練習を続けた。同校野球部後援会長であるシャンソン化粧品の川村修社長の計らいで5月に就職し、女子バスケットボールでは名門の同社アスリート史に新たな1ページを加えた。
○…大学中退の理由は敬愛する恩師の太田誠監督(浜松西高出)勇退にショックを受けてのこと。2年生だった昨年の春季リーグから登板の機会を得たが、秋季リーグ終了後の11月に退部し、同時に退学した。帰郷後は野球をあきらめかけたというが、周囲の励ましに後押しされた。シャンソンが原材料を提供するブレンド茶の工場に勤務し、夕方からは母校で指導と練習に励んだ。阪神指名の動きはドラフト当日のスポーツ紙報道で初めて知ったという。「うれしいというか、びっくりです」。作業着姿で会見に臨み、身長190センチの肩をすくめてみせた。
○…静岡高では2年の夏に甲子園出場を果たした。チームは3回戦で常総学院(茨城)に敗れた。この試合、8回1死からマウンドを任された。公式戦初登板だった。当時の静岡新聞は伝えた。「(先輩捕手の)青池さんのミットだけを見て、思い切り投げた。緊張はしたけど、いい意味でのプレッシャーだった」。後続の2人を仕留めたが逆転はならず、同級の増井投手とともに「あと2回、甲子園出場のチャンスがある。絶対戻ってきたい」の夢はかなわなかった。あれから4年3カ月。甲子園に戻るという誓いは、「縦じまユニホーム」の一員として実現することになる。
○…工場では毎日、茶葉20キロが詰まった袋を300回運んだ。「いいトレーニングになりました」。他球団はもとより、本人ですら「いつスカウトが見に来たかも知らない」というほどの「隠し球」指名。1巡目で6球団が競合し、ソフトバンクが交渉権を引き当てた大場投手(東洋大)や、今春センバツ優勝、今夏甲子園4強の常葉菊川高のエースで横浜ベイスターズが1巡目で指名した田中投手ら、実績のある同期とプロの道へ踏み出す。高校3年では1塁手の2番手投手、東都大学リーグでは未勝利、試合から遠ざかって1年。「余計なことは考えず、目の前のことにだけ集中していきたい」。輝かしい戦歴がない分、潜在能力を高く評価されたということ。恩返しのマウンドをかみしめてほしい。
(11/25 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。