○…米プロ野球メジャーリーグ(MLB)の昨季王者ボストン・レッドソックスと、オークランド・アスレチックスが3月下旬、東京ドームで08年開幕戦に臨む。MLB球団の本拠地がある米国、カナダを除いた第3国で、開幕戦が初めて開かれたのは1999年のメキシコ。日本での開幕戦は翌00年から始まり、今回で3回目だ。開幕戦の前には巨人や阪神との国際試合もある。レッドソックスの社長は「レッドソックスの熱狂的なファンを日本にまで広めたい」と語ったと報じられた。もちろん、日本のファンには松坂大輔、岡島秀樹投手の凱旋試合である。しかし、開幕戦という特別な試合を手放す地元ボストンのファン心理はどうなのだろうか、と思わずにはいられない。
○…日本初開催の00年は、千葉ロッテ監督から転身したバレンタイン監督(現在は千葉ロッテ監督に復帰)率いるニューヨーク・メッツと、強打者サミー・ソーサ擁するシカゴ・カブスが対戦した。続く04年はニューヨーク・ヤンキースとタンパベイ・デビルレイズが対戦し、ヤンキースの松井秀喜選手の凱旋試合ともなった。国際化政策の推進をうたうMLBは、01年に米領プエルトリコでも開幕戦を行った。北中米とアジアを除けば、野球は依然“マイナー競技”である。4年後のロンドン・オリンピックでは実施種目から除外が決まった。一方で、海外開幕戦は既に人気のある地域で開催ばかり。世界的な底辺を広げるというより、「海外公演」「海外興行」のイメージが付きまとう。
○…1970年代後半、ロバート・ホワイティング氏が「菊とバット」を著した。野球にみる日米比較文化論とでもいおうか。80年代後半にはヤクルトに在籍したボブ・ホーナー選手が、「日本には野球というもう1つのベースボールがあった」というような趣旨の発言をした。練習方法や起用方法から戦術、精神論に至るまで、さまざまな対比の要素はある。しかし、ワールド・ベースボール・クラシックで日本が優勝する時代にあっても、いまだ決定的な違いは「フランチャイズ制」だろう。簡単に言えば、企業名を名乗るのか、都市名を名乗るのか、である。
○…市民球団で発足した広島は60年代終わり、地元の自動車メーカーが筆頭株主となり、球団名を広島東洋カープに変更した。しかし、この正式名称を耳にするのは、今でもドラフト会議の席上ぐらいである。また、横浜大洋ホエールズは90年代初め、当時の親会社の改称に伴い、横浜ベイスターズと変わった。以降、フランチャイズの都市名を冠する球団は増えた。それでも、メディアが都市名のみで呼ぶのは、いまだこの2球団だけ。千葉ロッテは混在型だが、東京ヤクルト、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、東北楽天は企業名でしか呼ばれない。
○…ここで、考えたいのは、プロ野球の「フランチャイズ制」と、サッカーの「ホームタウン制」である。ともに「本拠地」という意味では同一だ。都市名のみを冠するのはMLBをはじめ、アメリカン・フットボール、アイスホッケー、バスケットボールの北米4大スポーツに共通する。球団の親会社が世界的に著名な企業であっても、よほどのファンでない限り、球団との関係を言い当てることは少ないだろう。テレビCMを全米中、いや世界中に連日流すような企業であっても、球団経営を通じて企業名をPRすることは皆無だ。
○…サッカーの「ホームタウン制」も然り。いや、クラブ制を敷くだけに、野球以上に「市民球団」である。Jリーグも発足当初は「フランチャイズ」と呼んでいた。しかし、発足翌年の92年半ば、「ホームタウン」に改称した。「フランチャイズには興行的な意味合いが強く、地域に根差したスポーツクラブづくりという理念をより強く打ち出したい」というのが主な理由だった。MLBの海外開幕戦に筆者が抱く疑問もここにある。「興行」が「地元ファン心理」に優先してはいないかという点だ。
○…欧州サッカーにも同様の動きはある。イングランド・プレミアリーグが2年後のシーズンから海外公式戦を計画している。欧州サッカー連盟会長は「笑止千万」とばかりに計画を批判し、公式戦承認の権限を持つ国際サッカー連盟も会長は否定的だと報じられた。スペイン1部リーグのレアル・マドリードが「銀河系スター軍団」を引き連れ、リーグ終了後に行った「世界ツアー」は訪日の記憶も新しい。だが、「公式戦」を絡めた「興行」ともなれば、行き過ぎた商業主義として協会も批判的にならざるを得ないのだろう。さて、08年MLB開幕戦である。日本開催の主催者に名を連ねる「企業」は、Jリーグ発足時、唯一「企業名」を冠したクラブの親会社だということを付け足したい。
(2/10 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。