○…第80回の記念大会となった選抜高校野球大会で静岡県の常葉菊川は3回戦で姿を消した。PL学園(大阪)以来26年ぶり、史上3校目の春連覇の夢は、ベスト8進出を前についえた。千葉経大付(千葉)に完敗を喫し、昨年秋の新チーム結成以来の公式戦の連勝も12で止まった。昨年の秋季大会王者が全国から集い、今大会の前哨戦となった明治神宮大会も制し、優勝候補の一角に挙げられていた。がっくり肩を落とした静岡県内の高校野球ファンも少なくないとは思うが、春甲子園に残した忘れ物の大きさを胸に、早くもナインの「夏」を期待するとともに、3季連続で県王座を奪われた他校の奮起が楽しみだ。
○…常葉菊川打線は千葉経大付の斎藤投手に10三振を喫し、7安打もあと1本が続かなかった。緩いカーブで入り、重いストレートで追い込み、最後はスライダーやフォークの鋭い縦の変化で勝負する。初戦でも13奪三振の快投を見せた右腕に、強力打線の快音は響き渡らなかった。初回先頭の中川右翼手から2回先頭の酒井遊撃手まで4者連続三振。先攻の千葉経大付が初回いきなり2点本塁打などで3点を先取しただけに、驚きをもって見つめたファンも多かっただろう。苦しんだ初戦を良薬に、投打に爆発を期待した目には、先発全員安打を許した「逆の展開」に意気消沈したかもしれない。
○…常葉菊川の主戦左腕、戸狩投手も初回は「あれよあれよ」の失点だったろう。単調な配球に陥ったところを痛打され、初回だけで被安打5。2回以降は本来の投球に戻り、5回まではファンブルぎみな内野安打1本に抑えた。致命的な中押し点を奪われた6回先頭打者は、完全に打ち取った当たりのテキサス打がきっかけだった。その後の3連打で、8番打者と1番打者に中越え深くはじき返されたとき、夏までに鍛え直すべきことの多さを痛感したかもしれない。打線は2度の先頭打者の安打出塁を含め、無死または1死で走者を出した5度の好機にも、やはり犠打はなかった。4度の無死、1死走者をすべて送った千葉経大付とは対照的だ。
○…千葉経大付の松本監督は試合後のインタビューで「出来すぎ」を繰り返した。戸狩投手のストレート狙いが的中し、相手打者のデータ分析から打者1人ずつに守備位置も考え、攻守に「してやったり」のはずが「予想外の展開」と振り返った。高校野球の長い歴史を飾った過去幾多の強力打線にも劣らない「フルスイング野球」の常葉菊川に、「振りの鋭さ、威圧感は、何点のリードでも怖かった」という。勝利監督の安どと余裕の談話ともとれるが、犠打を絡めて「まずは1点」のセオリー打線よりも、いつでも一気に畳み掛けられる実績を持った超攻撃打線は、実際、不気味だったはずだ。
○…静岡県の高校野球ファンは「野球王国」の称号も昔日、つい何年か前までは「甲子園で勝った」というだけで大騒ぎが続いた。初戦の2回戦で明豊(大分)に逆転で辛勝し、筆者の周囲でも「勝ち方がなあ」という声を少なからず聞いた。そう、勝利に内容を求めるほど、常葉菊川の活躍は県内ファンの心を躍らせた。昨年の春全国制覇、夏全国ベスト4、秋日本一。期待は当たり前にすぎる。暴走ともみえる走塁が何度かあったセンバツの初戦でさえ、「まだ思い切りが足りない」と苦言を呈した常葉菊川の森下監督。“春終戦”には「連覇の夢がついえたというより、もう少し競ったゲームをしたかったという悔しさの方が大きい」。とはいえ、夏に向けたリセットは、完敗もまた良し、ではないか。
(3/29 掛井 一也)
「だんまく」とはスポーツ大会で目にする応援用「横断幕」の通称。時に温かい声援、時に檄文(げきぶん)の横断幕にならい、静岡県内スポーツ界の出来事を中心に、折に触れた話題を取り上げます。