○…北京五輪に臨む日本競泳陣の水着騒動は、日本水泳連盟(水連)がサプライヤー(物品提供)契約を結んでいない英国社製の「高速水着」を含む「自由選択」を認め、“一件落着”した。サプライヤー契約を結ぶ国内3社の改良水着と高速水着の試着競技会となったジャパン・オープンは、高速水着による日本記録ラッシュに沸いた。エース北島康介選手が男子200メートル平泳ぎで従来の記録を1秒近く縮める世界新記録を樹立するに至っては、国内3社は「グウの音」も出なかったと言わざるを得ない。ジャパン・オープンの前から「解禁」の意向が報じられていた水連の常務理事会も、国内各社が納得の上で着用容認を決定できる結果に、安どすらしたのではないか。
○…ジャパン・オープンで樹立された17の日本新記録のうち、高速水着の着用が16を占めた。五輪代表の座が決まった後、本番開幕1カ月半前の大会。代表選考、本番レースというピ-クの谷間の時期を考えれば、繰り返された新記録のアナウンスは驚異的ですらある。終盤まで下半身が沈まないという極めて高い浮力の維持は、一部関係者が漏らした「水着のドーピング」の呼称さえ「言いえて妙」に映ってしまう。「潜水レースでシュノーケルが認められたような感じ」という知人の言葉にも、なるほどと思ってしまった。
○…どんなスポーツでも用具は必要だ。それぞれのメーカーが商品開発にしのぎを削り、選手個人や競技団体とさまざまな形で契約を結ぶ。契約形態は、サプライヤー契約のほか、アドバイザリー契約もある。選手は提供を受けた用具の使用感をメーカーに伝え、メーカーは改良や新技術開発に助言を役立てる。北島選手は国内3社のうちの1社とアドバイザー契約を結んでいる。しかし、ここまで結果に差の出ることは、各社とも「想定外」の出来事だったろう。生身の技術を補完するはずの用具が「主役」になってしまった。
○…北島選手の平井則正コーチも解禁決定を前に、「選手個人に(契約メーカー以外の着用許可申し出を)させることは酷だ。われわれのサイドからお願いすべきこと」とテレビインタビューで答えていた。北京五輪で英国社製着用を決めた北島選手は、自身の公式ウェブサイトで「世界の代表選手と勝負して結果を出し、その経験を(契約を結ぶ国内メーカーの)水着開発に少しでも役立てたい」と語った。「(契約メーカーは)プロスイマーである自分を支えてくれる大切なパートナー。正直なところとても悩んだ」とも記した。それは、そうだろう。「この水着では北京で勝てない」と宣言したようなものだから。
○…国内各社の対応も一様に寛容だった。北島選手の契約メーカーは違約金も課さず、英国社製の着用を容認した。わが国民のオリンピック好きは世界有数だ。まして表彰台の期待が高い競泳陣だけに、「国内メーカーが契約をたてに水連の解禁を認めなかったからメダルが取れなかった」と世間に言われでもしたら、商品開発における敗北以上にイメージダウンは必至だ。「これで選手は言い訳はできない」という競泳日本代表の上野広治監督の言葉がすべてだ。五輪会場の「ウオーター・キューブ」でジャパン・オープンの再現を楽しみにしたい。
(6/13 掛井 一也)