○…大半で平常授業日となった14日の高校野球静岡大会第5日、2回戦2試合を観戦した。球場に登場した4校のうち、公立3校の応援スタンドは、控え部員と父母やOBに一般ファンのみ。一方、唯一の私立校は全校応援とみられるほどの超満員。そんな公私の差はほかの9球場でも見られたことだろう。あと1勝で甲子園かと見まごうほどに一喜一憂の大応援団も、OBの吹くサックス1本の調べに合わせて声をからす控え部員も、リード役の掛け声に声援を唱和する父母会も、グラウンドに届く熱い思いは変わらない。
○…各球場に配置された静岡新聞記者が、さまざまな白球ドラマを伝えてくれる。スポーツ面はもちろん、社会面や地方版まで、取り上げる“ネタ”は多岐にわたる。亡父の1周忌が初戦となった選手、23年ぶりの勝利に沸くナイン、負傷で病院に搬送されたチームメートに勝利報告ができなかった無念-。大会は出場119校すべてが登場した。大会が進むにつれ掲載記事も、選手個人やスタンドで拾った「こぼれ話」や「エピソード」から、試合展開から選び抜いた「勝負の分かれ目」や「流れを変えたプレー」に変わっていく。
○…一方で、球場に足を運ばなければ「見えない」場面も少なくない。それこそが「生のだいご味」である。同じような場面であれば、どの選手もする仕草であったり、表情だったとしても、スタンドで選手と「熱い夏」を共有する中で、おのずと印象は非常に深くなる。今回もそうだった。ある場面をきっかけに、一人の三塁コーチを追っていた。そこには活字にならない小さな小さな白球ドラマがあり、筆者は観客という名の「読者」となった。
○…追いつかれて迎えた5回。二塁打の先頭打者が1死後、三塁打で生還した。三塁コーチは中継プレーがもたつくのを見て、打者走者に向かって大きく右手を回した。判断は決して間違っていなかった。しかし、遊撃手の返球が間一髪早く、打者走者は本塁でタッチアウト。それでも、すかさずの勝ち越しにベンチは大騒ぎだった。しかし、彼だけは違った。何度も首をひねり、喜ぶベンチに視線は送らなかった。
○…次打者が左前打で続くと、押せ押せムードのベンチとは裏腹に、帽子を被り直してうつむいた。「三塁に走者を残しておけば…」。加点機を逸した自問自答が聞こえるようだった。その後、連打と四球、ボークで追加点を奪うと、やっとベンチと一緒に小躍りし、ガッツポーズまで見せた。安どのジェスチャーでもあったのだろう。7回2死は代打にも立った。結果はピッチャーゴロだったが、うなだれなかった。打線は5点差をつけていた。彼を一喜一憂させた"3点目の攻防”は、既にスコアボードの中のひとコマとなっていた。
○…全国の地方大会からもさまざまな話題が届く。春の覇者、沖縄尚学は決勝で敗れ、準優勝の聖望学園(埼玉)は初戦の2回戦で敗退し、昨夏の覇者、佐賀北も3回戦で姿を消した。プロ野球の巨人で活躍し、今季限りで現役を引退した桑田真澄氏が桜美林(西東京)に今春入学した長男の応援に駆けつけたニュースには、桑田氏、清原和博選手(オリックス)の「KKコンビ」擁するPL学園(大阪)を思い、歳月を感じた。その2日後に伝えられた「KKコンビ」を決勝で破った取手二(茨城)の投手石田文樹氏の訃報にも心が痛んだ。列島にドラマありである。
(7/17 掛井 一也)