○…いよいよ北京五輪の開幕が迫った。静岡新聞も現地に続々到着する日本選手団の報道で連日紙面がにぎわう。韓国・済州島での最終合宿を前に3日間の短い北京滞在を行った競泳陣。選手村オープン初日に一時入村し、2大会連続の2冠を目指す北島康介選手は「今まで行った選手村の中では最高の食事」という。3大会ぶりの出場となる団体総合で8位以内を目指す体操女子は、床運動のマットの色が薄いブルーで「びっくりした」と戸惑いも。どちらからも現地入りの緊張感と本番前のリラックス感が入り交じった様子が伝わった。
○…開幕まで1週間となった7月31日には、団体総合で2大会連続の金メダルを狙う体操男子が北京入り。8月1日付の静岡新聞朝刊1面は、北京国際空港で報道陣に囲まれる冨田洋之主将の姿が飾った。ライバル中国の報道陣も大勢詰め掛け、「注目されるのはうれしい」という談話がスポーツ面に載った。しかし、アテネ金メダリストの水鳥寿思選手(静岡市出身)がいない光景は、やはり寂しい。けがで満足な演技ができず、約3カ月前の代表選考会で落選が決まって以来、分かっていたこととはいえ、あらためて不在を実感した。
○…どんな思いでチームメートの北京入りの報に接し、どんな思いで本番の演技を見るのか、見ないのか。もちろん、この4年間ともに戦ってきた仲間の活躍を信じ、心からの声援を送ることだろう。しかし、北京は自分が主力として中国に再び勝ちたいという一心で頑張ってきた。「『五輪に出られなかったら』なんて考えたこともなかった」。夢にも思わなかった自分のいない舞台。テレビ中継を通じてでも直視できるのだろうか。それが、前回果たせなかった個人総合、種目別の舞台となれば、悔しさと情けなさの自問自答はなおさらだろう。
○…昨年の世界選手権で4つのメダルを手にするなど、日本体操界に欠かせない存在だった。32年ぶりの団体金で復活した「体操ニッポン」。アテネ後の4年間をけん引したことは自他ともに認める。だが、4月の五輪代表2次選考会第1日のつり輪で左上腕を痛め、「土壇場になって演技構成を変えたのが原因。自分の不注意」。代表落選を振り返る言葉が記事にあったが、その後、ご両親から聞いた「これまでのオレの頑張りは何だったんだろうか」という水鳥選手の真情の吐露には胸が締め付けられた。
○…スピードや距離だけではない。1秒、1㍉を競うアスリートの真剣勝負はドラマの宝庫だ。ライバルとの戦い、自分自身との戦い、友人や家族、恩師の支え…。選手生命を危ぶまれる2度の大けがを克服した水鳥選手のドラマは、前回アテネ大会に咲いた話題だった。「体操ニッポン」復活の立役者の名前が北京の表舞台で語られることはないだろうが、その分、冨田選手をはじめ、日本チームが水鳥選手と「ともに」戦ってくれるはずだ。
○…「ともに」の思いは陸上女子走り幅跳びの池田久美子選手(スズキ)も同じ。アテネ五輪の女子砲丸投げ代表で2年前に亡くなった森千夏さん、そして、3年前に亡くなった父とともに戦う。同期入社で親友の森さんは日本人女子として、同種目40年ぶりの五輪舞台に立った。古代ギリシャの遺跡で歴史的な投てきを戦ったが、既に病魔に冒され、2年後に26歳で亡くなった。池田選手にとって「一緒に北京へ」が森さんとの合言葉であり、「初めての五輪舞台へ」が父への約束だった。最後の最後で五輪切符を手にし、競技中にもかかわらず感涙の顔を両手で覆った。
○…アテネの地で水鳥選手、森さんの活躍を見た1人として、筆者も2人の「心」を北京でも感じたい。男子体操は予選が9日、団体総合決勝12日、個人総合決勝14日、種目別決勝は17-19日。女子走り幅跳びは19日予選、22日決勝だ。池田選手を含めた静岡県勢は、サッカー男子、水泳男子、バレーボール女子、陸上男女、レスリング男子、卓球男子、近代五種男子の7競技14選手が戦いに臨む。バレーボール女子の杉山祥子選手(富士見高出、小山町出身)は2大会連続の代表だ。県勢に焦点を当てた静岡新聞記者の現地からの報道を楽しみにしたい。
(8/1 掛井 一也)