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Webコラム一灯

 土俵の鬼逝く

2010/09/02

  新聞記事の編集で難儀なのは、死亡記事です。紙面上の扱いを決めるのは、亡くなった人物の生前の業績です。編集者はもちろんさまざまな分野の知識、経験がなければ評価のしようもありませんし、あれこれ相談するゆとりもなく判断を下さなければならないのです。判断が的外れだったりすると、技量があからさまになります。大方の一般紙が、そろってフロント面に訃報を掲載しました。初代若乃花。昭和の名横綱、言うまでもない、「土俵の鬼」花田勝治さんです。

  荷役作業、過酷な重労働がそのイメージに重なります。スポ根、いわゆるスポーツ選手の根性物語は漫画、ドラマの素材として幅広いファンを獲得していますが、モノクロの時代から映画のジャンルでもありました。一種の伝記です。人いきれの館で見たのが、「若ノ花物語 土俵の鬼」で、自ら出演していました。小兵ながら土俵に根を張るような安定した強さを発揮した稀代の業師は輝いていました。汗にまみれ難敵を破り、成功の道を駆けるかと思えば、悲運に見舞われる。ストイックなその姿は、相撲の美学の体現者だったのです。ライバル栃錦との栃・若決戦はまさしく、ひとつの時代の象徴でした。

  子どもたちは夢中になりました。ブロマイド、めんこのモデルの多くは、スポーツのヒーローですが、幼くても理解できる分かり易さが底辺にありました。努力を積めば強くなれる、潔さは何物にも替え難い美徳であり、恥を知らない卑怯者は退場を迫られる。正面からがっぷり組み合う勝負は、娯楽の少ない時代、カタルシス(心的浄化)の場面だったのです。

  「鬼気迫る」という言葉があります。神聖な勝負に全身全霊をかたむける、そんな形容詞が似合う力士が見当たらなくなりました。最近は不祥事でしかニュースにならない大相撲、角界です。一番の名勝負が、どんな打開策にもまして救済になるはずです。力士はその本分に立ち返らなければならないのです。

  ところで、この勝負はどうでしょうか。まず行司がなっていません。大義もなければ名誉もない。引退するのかと思っていたら、まるで自分の所有物に拘泥するように「党を守るのだ」という。恥を知らないから、言葉を貫くなどという発想自体なさそうです。土俵に上がった両雄も、桟敷席からみれば政治家の美学を重んじているようには見えない。要するに分かりにくいのです。このヒーローに寄り添いたい、リードしてほしい、といったカリスマ性を感じさせません。と嘆いていても始まりません。既に土俵には塩がまかれています。民主党代表選、後世に語り継がれるくらいの大一番を期待するしかない。


(鮟鱇)




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