∋ 首相臨時代理を務めたこともある硬骨の政治家・伊東正義氏のあの言葉を思い起こします。「表紙を変えても中身を変えなければだめだ」。政界疑獄で窮地に陥った自民の救世主として総裁に推されながら、頑として受け付けませんでした。政治改革にかけた情熱は終世変わることなく、今も慕う声を耳にします。
∋ いわゆる椎名裁定で「青天の霹靂」、総裁になったのがクリーン三木こと三木武夫元首相です。金権問題で党ががたがたになった時に登場、戦後最大の汚職ロッキード事件の徹底究明により党内から袋叩きに遭いました。“恥ずべき”集団と唾棄した挙党体制確立協議会からの三木降ろしの包囲網の中でも、世論の支持を背景に粘り腰をみせました。2人の大立者に共通するのは、揺るぎなき信念ではないでしょうか。
∋ 党人事をめぐる麻生太郎氏の迷走ぶりをどう表現したらよいのか。表紙はもちろん変わらない、本のタイトルは変えずに副題をいじろうとしたものの、大方の反発に進退窮まると、2章分、目次を変えるという姑息な決着を図る。そんな具合だから読書欲をそそることなどない一冊、地味な内容で目次をたどる気にすらならない--。
∋ 妙に時代がかった大仰な物言いを好む御仁です。「しかるべき時に、しかるべき人に」「私が決めさせていただく」と見栄をはっていたのに、情勢芳しからずとみるや、もともとそんなことは言っていない、などとしらを切る。結局、麻生降ろしの気配深まる中で、人事を封殺されました。宰相の権力の源泉をかくもあっさり取り上げられるとなると、求心力どころではなく死に体です。指導力を印象付けようとした「しかるべき」が例のぶれ、腰砕けを露呈してしまいます。「政局より政策」を唱えて就任しながら、自ら政局のタネをまいて火だるまの図なのです。
∋ 企業経営に携わり財界活動を経験して、経済の現場を知悉しているというのがウリでした。際立った経営者は、血の滲むような体験から、多くの名言箴言を残しています。恐らく麻生氏も、経営指南書、指導者論などに詳しいでしょう。「政局より政策」も、その自負が吐かせた言葉のはずです。
∋ 書棚にいつも置いている「現代人のためのことば・ことわざ大全集」を引っ張り出します。武将・黒田如水の「大将たる人は威と言うものなくては万人の押え成り難し」が太字ゴジックになっています。ただこの一文の解説は、続きを掲げています。「われから悪しく心得て、わざと身に威を拵(こしら)えて付けんとするは、却て大なる害になるものなり」。麻生氏は知っているのでしょうか。いや、こんな警句も不要かも知れません。人事の不始末により「人事不省」のようにみえるのです。蛇足ながら、「昏睡状態に陥り意識を失うこと」と大辞泉にはあります。
(鮟鱇)