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Webコラム一灯

 さらば朝青龍

2010/02/05

  漢和大辞典を引きます。諫官=天子の欠点や政治上の誤りをいさめ正す役目の官とあります。その長は「諫議大夫」です。目上の人に意見したりいさめることは難儀なことです。その職位は相当のエネルギーを必要とするでしょう。目上の人間もまた、意見するけむたい者を身近に置く度量を求められるのです。

  最近はどこの社会も微温的になっているようです。正論かざして上司に直言し部下を叱咤し、同僚と妥協なき議論を戦わすなどという光景はまれになりました。耳に痛い話はだれも聞きたがらない、それが正しければ余計に栓で覆いたくなる。追従がはびこり、頭領は情報過疎で裸の王様と化してゆきます。

  横綱朝青龍が大相撲の世界を去りました。記録に残る優勝を飾った初場所。巨漢力士をそれこそ放り投げた一番は強烈な印象となりました。強いとは、ああいうものだ、と。まるで赤子扱いされた力士にはかわいそうですが、格闘技の世界では“強さ”は何よりもの存在感をもたらします。理念や理屈はあとからついてくる。やっと29歳になった青年が何年も最高位を維持してきたのです。力への信奉は無理からぬことでした。彼自身、土俵では鬼にもなると語っていました。

  力で彼をしのぐライバルが長く登場しなかったことは、彼に史上何位とかの栄誉をもたらすと同時に、大きな災いとなったのでした。自ら引き受けたヒール(悪役)だったそうですが、増長し、傲慢になり、物申す人がいなくなったなれあいの社会で墓穴を掘ることになりました。本当の危機でした。泥酔し、凶器と同様の手を用い一般人に暴行を働いたのです。棲みやすい狭い空間の常識が、社会一般の規範・倫理をしのぐと誤解したのでしょう。強くさえあれば許される、批判を浴びようが、後ろを向いて舌を出しているような態度は、刑事事件にもなろうかという場面では通じないのに。

  気力の源泉はハングリー精神か、彼の秩序を無視したような行動が一種、爽快さをもっていなかったわけではありません。大相撲の興行におもしろさをもたらし、場所を盛り上げました。協会は潤ったことでしょう。手の付けられない行状に負うという矛盾を抱えていたのです。事ここに至るまで放置してきたのです。これで目が覚めたでしょうか。周囲の事なかれ主義、虚像の強さに付きまとう負の側面が、強者を蝕んでいたのです。

  お相撲さん、と言ったものです。剛力で無類の強さの一方で、もろさを併せ持つ。その人間味がファンを魅了してやまない。愛されるお相撲さん、そこにこそ今回さんざん指摘された“品格”が滲み出るものでしょう。諫言する人を持たなかった彼は結局、お相撲さんになれませんでした。惜しいことです。 


(鮟鱇)




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