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2004年「Webコラム一灯」

 実物感覚が忘れられていませんか

2004/10/10

  新聞は、情報を読者に伝える媒体(メディア)であることは論を待ちません。いわゆる情報社会の進展は、「知ること=知識」の経済的価値を高めています。「知らせ」を満載し伝達する媒体の「機能」が当然、強調されます。新聞は速報性を追求し、リアルタイムの報道に近づくための技術革新を重ねてきました。その過程で、保存も容易になりました。紙の縮刷版はマイクロフィルムになり、さらに磁気媒体へと進化しています。

 

  同時に新聞は、目方があり、かさがあり、手触りを有する「実物」、情報を掲載した紙媒体という「モノ」です。1部32ページもの束が、1時間に10-15万部も高速運転の輪転機で印刷されてゆきます。壮観です。最近、静岡新聞社を見学した親子の感想文を当サイトで紹介していますが、印刷という工程の実際、例えば回転の速さもそうですし、インクのにおいもまた実地の見聞でしか知り得ません。多くの人間が、「締め切り」という”絶対の時間”に追われながら懸命に作業をしています。紙面に凝縮する情報は一見、無味乾燥のようですが、制作過程を踏まえれば、五感に訴える、人肌になじむ、奥深い製品だと理解していただけます。

 

  先日まで、東京大学総合研究博物館で『プロパガンダ1904-45 新聞紙新聞誌新聞史』という興味深い展覧が開かれました。2年近く費やして近代新聞1万点を収集したそうですが、刷られた紙の総体としての魅力を知ってもらうため、内外の新聞そのもの、”本物”を並べたものでした。大半はセピア色がかかった紙面が、実に多彩な機能を主張していることが分かります。ニュースを伝えるのはもちろんですが、時局を反映したプロパガンダ(政治宣伝)の道具として利用(悪用?)されます。ナチスが権力を掌握してゆく過程で媒体を道具にしました。まやかしの主義主張を浸透させる悪意をこめて政治勢力が制作した歴史があります。

 

  新聞「紙」はアートにもなります。貼り絵の材料であり、造形の素材であり、前衛芸術を展開する画布なのです。古い実物の展覧でありながら、この試みの革新性が再認識できました。植物学者が貴重な新聞コレクターだということも、実物によって説得力を持ちます。押し葉標本の作製で使うのです。新聞はニュース、企画などの記録媒体であると同時に、広告を掲載して生活情報を提供する実用手段にもなっています。暮らしの変容とともに、媒体も自己革新を遂げてゆきます。その軌跡を概観しました。

 

  見やすさを求めて体裁も変わってきました。例えば紙面を見てください。1段の文字数は、以前は15文字が主流でした。現在、静岡新聞では多くの記事が1段11文字になっています。高齢化社会を迎え、読者の便宜を考えて読みよい活字、大きな文字を追求した結果です。情報量を減らすことなく、お年寄りにも不便をかけない、その整合の結果です。写真やイラストの多用、モノクロからカラーへの転換、特集紙面など構成は需要に応じて大きく変わりました。それらが、いつでも手にできて、一覧可能な紙に凝縮しているのです。

 

  このごろ社会の陰影をなしているのは、バーチャル(仮想現実)感覚の浸透です。少年事件の背景、要因としても指摘されます。現実感、リアリティーが乏しいままに知識だけは膨張してゆく。擬似体験と現実の境い目があいまいになり、またそれを確認する教育やしつけもされない。ものごとを現実に照らして粘り強く解析するような習慣がなく、マニュアルを頼りに簡単な結論を導き出そうとする。倫理や道徳、規範、良識が、遠回りで”厄介な”古臭い価値として軽視される。技術の高度化は不変の流れでしょうが、そんな時代にこそ「現場感覚」「実物感覚」が必要ではないでしょうか。新聞「紙」の展覧を眺め、ペーパーのにおいをかぎながら、思ったものでした。

(鮟鱇)

 

※Webコラム「一灯」は、ShizuokaOnline.comを運営する静岡新聞社・静岡放送 総合メディア局のスタッフが執筆するオリジナルコラムです。時事問題を中心にさまざまな話題を取り上げていきます。




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