∋ 地元の特産を直販する朝市などの施設が人気を得て、最近は常設も増えています。週末などに農協の直売所をのぞきます。初めて訪れた時は、大げさでなく感動しました。野菜の緑の見事さ、瑞々しさ。見た目だけで既に魅了され、味を知ってやみつきになります。いわゆるトレーサビリティー、生産履歴も表示されています。
∋ 『畑から旬』というタイトルが気に入っていました。静岡新聞の夕刊生活欄の人気シリーズでした。この春まで約50回の間に、県内の特産野菜などをレシピなどとともに紹介していました。静岡県が、実に多様な作目を産出する農業県であることをあらためて実感しました。農産品と暮らしの間がぐっと密接になったものです。
∋ 自然回帰、環境重視が時代のキーワードになっています。食の安全安心志向が強まり、「地産地消」が奨励されるのも当然の流れでしょう。旬の食材を地元で消費する。流通の時間を考えれば、最も美味な時期に食べられる。地場の食の事情について情報、知識が流布する。名前を知るだけでも、生産者への親しみが湧いてきます。生産者と消費者のいわゆる「顔の見える関係」です。食育の重要さが見直されていますが、食というなにげない行動が教育・しつけの場となり、マナーが教え込まれます。農林漁業などに理解を深めることもできますから、社会全般の" 授業" になります。
∋ イタリアで発祥したスローフード運動が普及しています。歴史は浅いものの、現代の風潮にかなっているようです。大量生産、大量販売、促成栽培の食のグローバル化が進む中で、単に「ゆっくり食べる」というばかりでなく、食べ物をじっくり見直し、食を通じてコミュニケーションを図る。食への慈しみが生まれ、結果的に質のよい食品が守られてゆく。そんな趣旨だと思います。
∋ 経済大国日本は、世界に冠たる繁栄を獲得しました。それに見合ったゆとりある豊かな暮らしを得たでしょうか。食に関していえば、とてもとてもです。値段のことではありません、適切な食材で一流の味わい方をする食卓があるでしょうか。むしろ貧困な食生活へと追い込まれていませんか。昔、「卓袱台( ちゃぶだい」は家族対話の場、しつけの舞台でした。現在は、「個食」の時代といわれます。機械的に食べ、孤独の味だけを確かめるのでは、何のための高度化社会でしょう。
∋ 知られざる特産、ワサビは「今まさに旬」ではないでしょうか。地場に根付いてきた歴史、繊細でていねいな栽培方法と手作り感、純然たる国産の深い香りと味わい、和食だけでなく多様な活用が可能です。そもそも日本人の食の嗜好にぴったりです。互いに薀蓄( うんちく) を傾ける中で、食通になってゆくかも知れません。街中の消費者が共有の指定田を借りて、栽培、管理を学び、収穫を楽しむなどはどうでしょう。
(鮟鱇)
※Webコラム「一灯」は、ShizuokaOnline.comを運営する静岡新聞社・静岡放送 総合メディア局のスタッフが執筆するオリジナルコラムです。時事問題を中心にさまざまな話題を取り上げていきます。