∋ 来季からのプロ野球新球団参入を決めるオーナーたちの判断基準は、「経営体力」でした。赤字がどの程度か、どこまで耐えられるかなんて財務諸表と首っ引きでマイナス志向の鳩首協議をしている図は、どうも暗い。これだけもうかるから、こんなに新しいことに挑戦してみたい、といった景気づけが球界から伝わってきません。
∋ 球団の長期保有が絶対価値のようですが、それはそもそも体質や構造の不変を前提にしているようにみえます。スポーツ界も時代とともに変容するのは当然のはずです。こんな現状に飽き足らず、有望選手は新天地を求めるのではないでしょうか。「公共財としてふさわしい企業、球団であるかがポイント」だと、選手獲得をめぐる不祥事など忘れたかの発言の一方で、「たかが選手」が意識の底にある。
∋ 新球団決定の派手な記事が踊る同じ日の朝刊に、173㌢、24歳の若いパイオニアの夢が詳しく報じられていました。世界最高峰で、体格に劣る日本人が最も入りにくいとされてきたプロバスケットボールNBAで開幕登録された田臥勇太選手の背番号は1でした。本人も、「最初の一歩をしるす」日本人第一号選手にこだわったと語っています。
∋ 1995年に「トルネード」の野茂英雄投手が大リーグに挑戦した時から、日本人は本場の迫力に魅せられてきました。チームプレーももちんあるでしょうが、基本的には選手個人が真摯に能力を磨きその成果を発揮する。すさまじい応酬、胸打つプレーに観客は感動する。この明快さがスポーツ共通の楽しみです。田臥選手は、たとえ体は小さくてもスピード、敏捷性で対抗できるという確信とともに、日本人の誇りを口にします。だからといって、成功が約束されるほど甘くはない。
∋ 所属チームの監督が言っています。「日本人初のNBA選手誕生は素晴らしい物語だけど、それ自体はチームに勝利をもたらさない。プレー時間は保証できない」。力がなければいつでも交代させる、と宣言しているわけです。その田臥選手がいきなり結果を出します。開幕ベンチ入りし、途中出場で計7得点をマークしました。ハイライトシーンを見ていると、心配な場面がありました。巨漢にぶつかって跳ね返され飛ばされるのです。それを彼は、「わざとぶつかって観客を楽しませた」と表現しています。
∋ 独自の哲学を持ち、インタビュー嫌いだといわれる求道者のようなイチロー選手は今季、歴史的な大記録を樹立しましたが、”同志”田臥にエールを送ります。「最初の一歩」の意義を強調しているのが特徴です。「いい仕事をしている」「充実している」プロや職人はいずれも「いい顔」をしています。初日の田臥選手がやはりそうでした。「自信につながった」と、余裕すらみせました。
∋ 大統領選を通じて、米国社会の病巣がえぐり出された、分断が深まったと解説されています。これから和合、癒しの時を模索するといいます。確かに苦悩する超大国でしょうが、不変の価値を信奉しています。「アメリカン・ドリーム」といわれる、夢に挑戦する機会の保証への楽天的なまでの確信です。ふところの深いスポーツ大国はだから、日本の若者をも魅了するのでしょう。彼らの母国に、求める挑戦の舞台がないとすれば、不幸なことです。要は、活気でしょう。
(鮟鱇)