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2004年「Webコラム一灯」

 母の涙(続)-娘を奪った者に

2004/12/21

 ∋ 神戸市の連続児童殺傷事件から8年になります。当時14歳だった少年の猟奇的な犯行は、暗い衝撃となって社会を覆いました。直後に、事件の舞台となった町を訪れたことがあります。整然と区画されたどこにでもありそうな新興住宅地をバスで巡りながら、不自然なほどに感じた日中の静寂に、事件の不条理、コミュニティーが蒙ったやりきれなさを思ったものでした。

 

 ∋ 彼は既に成人し、医療少年院を仮退院しています。保護観察が今月末で終了し、来年1月には本退院になるそうです。22歳の成人となった加害者は監視を離れる、つまり1月以降、国は法的に関与できなくなる。更生を果たしているということです。

 

 ∋ 被害者遺族が、これに合わせてコメントを発表しました。加害男性の現在の状況など一定の情報が開示されたことについては評価しているものの、最愛の子供の生命を奪われた無念さが癒えるものではないと想像します。それでも、更生したと国が保証しているから、信じるのだと自らに言い聞かせています。

 

  10歳の愛娘との幸せを引き裂かれた母親の一語一語が痛切です。男性からの手紙に”涙を流している自分がいた”、その時の感情をつづっています。「憎悪や恨みといった種類ではなく、ただただ哀しいというのが一番近い感情でしょう」。そして、「罪を許したわけではありませんが、彼の『悪』におびえるよりも、わずかでも残る『善』を信じたいと思うのです」という言葉に、涙とともにあふれる愛情の深遠さを感じます。

 

  北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさんの「遺骨」とされたのは、別人のものだという公式の鑑定結果が出ました。日本の技術を甘くみたのか、ならず者国家、いかさま国家は今度は開き直っています。四半世紀に及ぶ救出活動の象徴である母親の横田早紀江さんは、欺瞞(ぎまん)を当初から見抜いていました。

 

  その早紀江さんが述懐しています。涙をどうすることもできなかった、という日です。一葉の写真に接したからです。連れ去られたころのめぐみさんが、やや斜めに顔を向けているあの写真です。表情が何よりも雄弁に事態を語っています。不安、恐怖、どうしようもない悲しさが漂っています。「私はこんなところにいる」、「早くお母さんのもとへ戻して」。目がそう訴えています。すがる気持ち、望郷の思いを、母はだれよりもはっきりと読み取っているのです。

 

 ∋ 理不尽にさいなまれ、涙に暮れる日々にありながら、母は凛然としています。わが子に注ぐ愛情が、「必ず取り戻すから」という強さの支えになっています。その崇高さを知るからこそ、踏みにじり弄ぼうとする邪悪を許せないのです。

(鮟鱇)




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