∋ 猛暑だったこの夏は、ほとんどの日をノーネクタイで勤務しました。「名刺一つで誰とでも会える稼業。服装は常に、どんな人と会っても失礼がないように」。新聞記者となって最初に上司、先輩から教わった基本の「き」です。社会人一年生に必要な最低限のマナー、身だしなみを説かれ、中でもネクタイは必携と叩き込まれました。
∋ なるほど、働く男にとってネクタイほど都合がよいものはありません。ネクタイさえしていれば、どんな場面でも服装を非難されることはありません。どんな「偉い人」と面会しても失礼だと受け取られることはありません。たかが服装の話ですが、外見の印象も重要です。相手から信頼され、胸襟を開いてもらわなければならない記者であればなおさらです。
∋ 今夏のノーネクタイは、外回りから社内でのデスクワーク中心の部署に移ったためという職場の変化に起因しますが、社会環境の変化も意識にありました。必要以上に冷房を効かせない、という省エネの観点から、県内の企業や市町村でも夏場のノーネクタイを奨励するところが増えています。ただ、同じように掛け声をかけても、「実践はトップの姿勢次第」との記事を新聞で見つけました。
∋ 首長さんや社長さん自らがノーネクタイを実行している企業や自治体は、社員、職員もノーネクタイ派が大勢を占める。一方、トップがネクタイ着用のままだと、下もそれに倣う傾向が強いのだそうです。本来の目的よりも上の目や横並びの意識が優先され、行動規範となってしまう。いかにも日本の組織にありがちな光景、と記事には揶揄するニュアンスが込められていました。
∋ 数年前、「カジュアル・フライデー」がもてはやされた時期がありました。毎週金曜は決まりきったスーツやネクタイ姿でなく、好きな服装で勤務しようとの試みです。個性や自由な雰囲気を尊重することで、社員・職員の創造性や企画力が高められる。アメリカのIT企業が範だとして、まことしやかに喧伝されました。県内の自治体でも導入が相次いだように記憶しています。
∋ 服装ひとつで頭が柔軟になるなら、頭の固いお役人さんは毎日カジュアルで、と皮肉の一つも言ってみたくなりましたが、それ以上に違和感を感じたのは「金曜日に一斉に」という発想です。個性豊かで創造性あふれた能力を真に期待するなら、そうした「みんなで渡る」式の思考回路にこそ風穴を開けなければならないはずです。カジュアル・フライデーが定着しなかった理由はよく分かりませんが、狙い通りの成果が挙がったという例は寡聞にして知りません。
(鯔)
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