∋ 各地に悲惨なつめ跡を残した台風23号の報道に接して、かつて取材でうかがった狩野川台風(1958年9月26日)の被災者の体験談を思い出しました。家の屋根にしがみついたまま濁流に押し流され、最後は立ち木につかまっていたところを救出された方のお話です。子どものころの恐怖の記憶は脳裏に深く刻まれたままのようで、半世紀近くたった今 なお、「川に近づくのが怖い」「毎年9月が来ると何か落ち着かないような、嫌な気持ちになる」と言っていたのが印象に残っています。
∋ 真っ暗闇の中、40人近い高齢の乗客が観光バスの屋根で一夜を明かした京都府舞鶴市。市域の大部分が水没した兵庫県豊岡市。17㍍という記録的な高波に見舞われ、破壊された海岸堤防が民家を直撃した高知県室戸市。富山港沖では静岡市の国立清水海上技術短期大の実習生も乗船した海王丸が、「海の貴婦人」の面影もなく、荒れ狂う海に 翻弄されました。全国で600カ所に上ったという土砂崩れでも、多くの命が犠牲になっています。
∋ 「床下まで水がきたと思ったら、次の瞬間には胸の辺りまで水に浸かっていた」。豊岡市民のインタビュー映像に、狩野川台風被災者の体験談が重なります。堤防の決壊し た川が街をのみ込む速さは、今も昔も想像を絶するようです。農地が宅地に変わり、道がアスファルトで覆われた現代の方が、むしろ土地の保水機能や調整機能が低下している分だけ、 水害に弱くなっているとの指摘もあります。
∋ 今年10個目の本州上陸。10月に入ってからだけでも2個目。台風に刺激された前線の活動で、上陸前から長く降り続いた雨。内陸部を縦断するという”最悪”のコース 。記録尽くめの気象条件が被害拡大の要因の1つには違いないでしょうが、被災者の何人かは報道陣の問いかけに、「これだけの高波は室戸台風以来」「ここまでの浸水被害は30年ぶり」といった表現で、以前にも同様の体験をしたことを明かしていました。住民の経験は、地域の防災対策に生かされてこなかったのでしょうか。
∋ 本県も含め、9日の台風22号の被害が大きかった地域の方が、自治体の避難勧告などの対応が迅速だったと伝えられているのも気になります。行政だけではありません。「他人事だと思っていたけれど、いざ自分が被害に遭ってみると…」。避難所の前から水に浸かった自宅を眺め、そうつぶやいた被災者の姿がテレビに映し出されていました。時間の経過 とともに薄れる教訓。当事者になってみて初めてわく実感。大きな犠牲を代償に、今回もまた「防災」の難しさが浮き彫りとなりました。
∋ 「災害という『嫌なこと』を常に意識しろといっても無理。知らず、知らずのうちに、それもできれば楽しく、がポイント」。防災意識の向上に心を砕く富士常葉大環境防災学部の小村隆史 専任講師に以前、「土手の花見」の話を聞いたことがあります。先人たちは水防のとりでである土手に桜を植えました。それは、春に花見客を誘い、冬の霜で緩んだ 堤防の土を、梅雨の出水期に備えて再び踏み固めさせる狙いがあったといいます。
∋ 住民が楽しく集う花見は、地域の連帯感の醸成にも役立ちます。高齢社会を迎えて、地域コミュニティーの強化は防災面からも必要性が強調されているところです。大きな被害が出ると、河川改修や地滑り、高潮対策などの施設面での対策強化に目が向きがちですが、土手に桜を植えた先人の知恵にこそ、見習うべきも のがあるように思います。
(鯔)
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