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2004年「Webコラム一灯」

 父祖の地

2004/10/26

  新潟県中越地震の被災地に氷雨が降っています。冷え込みが厳しくなっています。復興に向けて気を取り直そうとしている人々にとって、むごい気象です。同情を禁じえません。余震が続き地盤はもろく、山は崩落の危険が増しています。テレビ画面に年老いた女性が出ています。「わたしら、この年になって」。事態を平静に受けとめるような淡々とした言葉が、ことさら胸に響きます。


  道路が寸断し孤立した山古志村には、全村避難指示が出ました。生命を守るためという村長の重い決断。その苦渋に満ちた表情に、住民のつらさが重なります。新潟県内の35市町村で10万人が自宅や地域を離れることを余儀なくされています。絶ちがたい思いで荷物をとりまとめ、救援のヘリコプターに向かう。上空から見るわが家には赤茶けた土砂が迫る。


  営々と築いてきた生活、守り続けてきた集落。はぐくみ慈しんできた日常、文化、伝統が一瞬のうちに遮断される。被災者にとって何より耐えがたいのは、父祖の地を離れることではないでしょうか。呼吸するようにからだの中に取り込んできた地域・家族の歴史と、それぞれの人生のあかしが、厳然と在るからです。


  揺れにきしみ、割れたガラスが散乱し、いつ”凶器”に変わるかもしれない家に入ることはかないません。それでも、敷地のそばを去ることはできない。車をとめて車内で寝起きしていた人の死が伝えられています。暖衣飽食を貪るようなこの国で、毛布が足りない、食料を手にできない。静岡県内の備蓄分が送り込まれています。わずかでも飢えをしのぎ暖をとる助けになれば、と願います。


  徒歩以外では入ることの困難な山中の町、川口町から通信社記者のルポが届いています(26日付け静岡新聞朝刊)。隣の小千谷市から2時間かけて役場に着くと、被害の全体像も不明のまま混乱している。集落の人々は疲労が濃く、土砂崩れにおびえている。空き地に集まって自給自足している、とあります。その住民が記者におにぎりを分け与えてくれた。涙が出た、と書いています。なけなしの食料を、それでもやってきた訪問者に差し出す。読みながら、こみ上げるものを抑えることができませんでした。


  孤立した地によく来てくれた、という思いだったのでしょうか。地域に根を張って生きてきた人々の崇高な善意です。土に生きるということの意味を考えます。長い時間をかけて受け継いできた父祖の地を、そこに存在することから始まる平穏な日常を、早く取り戻してほしい。                           

(鮟鱇)




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