∋ 固唾(かたず)をのむ-。日本中で多くの人々が、テレビ画像に食い入ったのではないでしょうか。新潟県中越地震で土砂崩れに巻き込まれた車の救出、母子の運命は分かれたのですが、2歳男児の生還は、過酷な運命にさいなまれる被災地をも深くとらえていました。避難所で、わがことを忘れ両手を固く握り締め、必死に祈る様子のお年寄りの姿が映し出されました。
∋ 同じ日、容赦ない余震が被災地を襲っています。崩落現場では、中継のカメラが激しく揺れました。レスキュー隊が身構え上方の岩石の動きを見る緊張の時間。画像がぶれます。その日午前、各地に入った取材陣が、「震度6弱」の瞬間をとらえていました。不気味な連続音、揺れるような空。冷たい体育館の床に這う高齢者、保母に抱きつく園児。恐怖に泣き叫ぶ女性の声が流れました。
∋ 邪悪な視線がこの光景を平然と眺めているのでしょうか。怒りをどうしようもありません。”義援金詐欺”のことです。発災から数日、人の仮面をかぶった輩がうごめいています。富士市では、寄付集めをかたる偽の市職員が出没しました。「新潟の人が困っているので…」と巧みに語っていたようです。幸い未遂でしたが、なんとか助けてあげたい、少しでも役に立ちたい、という善意につけこもうというのです。
∋ メディアに流れる「安否情報」の住所や氏名を悪用した”消防署員”が、口座に金を振り込むように促した例も報道されていました。横行する「おれおれ詐欺」は、肉親を思う情愛をもてあそぶ卑劣な犯罪です。汚れない心に疑念をもたらそうという、許せない悪業です。かくもよこしまになれるのか。人の品性が堕落しているとは思いたくありませんが。
∋ 2歳の無垢な生命は、奇跡的に父親の手に戻りました。回復と、無事の成長を祈りたいと思います。けなげな男児の救出は、母と姉を失った悲劇の中にも教えています。生を求めて、慎重な手作業で土砂をかき分けるレスキュー隊員は、「絶対に救う」と誓っていました。日本は、命の尊厳を何より慈しんできた国なのです。
(鮟鱇)