∋ 1週間前の土曜夕方、ラジオ番組で女性ジョッキーが地震発生を伝えていました。周期の長い地震だったのでしょう、「まだ揺れています」「まだ…」という声が緊張し、「冷静に行動を」と自らに言い聞かせるかのような呼びかけの言葉が続きました。
∋ 幸い電話が通じ、間もなく千葉県在住の知人から様子が伝わってきました。たまたまレンタルビデオ店にいて遭遇したとかで、緊迫感もひとしおでした。商品陳列棚が大きく揺れ、花瓶が落ちたといいます。ビデオショップの造りは地域を問わず大同小異でしょうから、狭い空間での恐怖は十分想像できました。
∋ 関東地方を襲った強い地震は、かなり広い範囲で揺れを観測し、殊に東京の一部地域では震度5強でした。この数字を記録したのは13年ぶりとのこと。かねて首都圏直下型地震が懸念されており、「いよいよ…」と思った向きもあったことでしょう。マグニチュードは6.0でした。平日の同じ時間帯だったら、と想像すると背筋が寒くなります。この日、鉄道を中心に交通機関はまひし、週末のターミナルは混乱、道路は当然の渋滞でした。遊戯施設では身動きとれず、揺れを感じて運転停止したエレベーターに閉じ込められる事例が頻発しました。世界有数のメガロポリスが、はからずもその脆弱さを露呈したのでした。
∋ ネットで検索してみました。平日、大都会に強い地震が襲来すると、数百万人規模で「帰宅困難者(帰宅難民)」が発生するといわれます。いや、それは650万人という試算が出ている、などと教える人もありました。静岡県人口のほぼ倍という、気の遠くなる数字です。重大かつ深刻だけに、この問題を考える会もあるようで、ホームページを開設していました。自己責任で参加する”サバイバル・ウォーク”の告知も目にしました。首都圏は拡大を続け、近郊都市に住居を求める勤め人が増大しています。通勤距離は年々長くなっています。帰途に就こうかという時間、それでなくともターミナルはごった返しています。駅に足止めを食らって行き場がない、水は、食料は、トイレは、家族への連絡は…と思い煩うあれこれが浮かび、それが小規模とはいえ現実になったのでした。
∋ 新幹線の復旧は比較的早かったのですが、在来線や地下鉄は手間取り、4時間を要する路線もありました。安全確認のため、網の目状に張り巡らされた線路を徒歩で点検するそうです。人手に頼る目視の作業なのに、土曜で招集するのも大変だったと後で聞きました。利用客はこの間、情報も不十分なまま「ひたすら待つ」状態でした。通勤ラッシュ並みの混雑だったというのも、あながち誇張ではないでしょう。
∋ 何より「情報過疎」がこたえます。自分が置かれた状況をつかめない。いやが上にも不安が増幅します。エレベーターに閉じ込められたケースはその典型です。高層ビルではなおさらでしょう。日本エレベーター協会の調査が報道されました。協会が維持管理を契約している約23万台のエレベーターのうち自動停止した機は1都3県で6万4000台に及んだそうです。これをすべて復旧するのに約2500人が出動して丸1日かかりました。階と階の間で止まり人が閉じ込められたケースは実に78件、救出時間は平均50分で最長170分かかったというのです。閉所恐怖症ならずとも、こんな場面では悪い方へ悪い方へと考えが向くはずです。都会に不可欠な機能が、逆に住人を追い込むのです。
∋ 地震の巣に暮らす私たちは、日ごろ、震災対策を口にします。しかし、今回も震度情報の連絡の遅れなど初歩的なトラブルがありました。随分時間をかけて確立してきたと思っていた対策が、こんな程度なのかと失望もしました。既に四半世紀以上もの間、「東海地震説」と共存してきた地域としては他人事ではないのです。大都市並みに社会インフラは整備されています。道路網が構築され、通信への依存は高まっています。しかし、ネットワークは一部のほころびが全体の破綻へとつながる危険を内包していることを自覚しなければなりません。つい先日も、あわや直撃かという台風の進路に緊張の時を余儀なくされたばかりです。「土曜夕方の震度5強」を徹底検証する必要があります。
(鮟鱇)