∋ よほど新鮮だったのか、来日した外国要人の発言以来、「もったいない」がもてはやされています。例えば英語で、この言葉の持つニュアンスに対応するような表現はどうか、と手元の小さな和英辞書を引いてみました。①良すぎる(be too good)②不敬(impious)と出てきますが、確かにちょっと違う。「日本の美徳」の微妙な味わいが、「もったいない」にはありますが、それはむしろ、日本人にとって死語と化していたから、外国人が注目した状況を恥じたということではないでしょうか。
∋ それではこちらはどうか。「情けない」です。①みじめな(miserable)②嘆かわしい(lamentable)③恥ずべき(shameful)で、共通語に思えます。およそ以前には考えられなかった愚行が起きる、この時代の気分はまさに、「情けない」に尽きます。典型的な”事件”がありました。
∋ 元祖サッカーの街を自認している藤枝市のJR藤枝駅北口広場の犬のサッカー選手の人形1体が壊されました。実はこれが初めてではありません。春先の新設直後に3体が被害に遭いました。やっと改修成ったと思ったら、再度の受難です。サッカーの聖地の名折れですが、よりにもよって市職員、それも市立病院の医師の仕業だったのです。先の被害後に設置された監視カメラがとらえていたのでした。
∋ 職業に貴賎なしとは言いますが、教育、法曹、医療関係者は社会の注目を浴びがちです。先日、総合病院の救急外来の世話になることがありました。適切な治療のために粉骨砕身する姿に感服しました。当直の若い医師たちは、院内用PHSで連絡を取り合い、自宅を含め通話区域外とは普通の携帯電話を使って情報交換していました。彼らの動静はこのように掌握され、人命にかかわる事態にも対応できるようにしているのでしょう。
∋ 何人で勤務ローテーションを回しているのか知りませんが、産科、小児科など緊急性の高い患者を受け入れる分野の医師不足が懸念されています。隣接市まで行かなければ出産できない、といった例も耳にします。患者取り違え、医療過誤などが頻発する時代、医師が長時間にわたり緊張を強いられる状況も想像に難くありません。セカンド・オピニオン、個人情報保護の要請もあります。「患者さま」といった表示が病院受付などに目立つように、低姿勢・親切を求められます。
∋ 緊張の糸を緩めたくなることもあるでしょう。オフの時間につい酒を過ごすことも考えられます。それにしても、酔った挙句に公共の財産を損壊するなどは論外です。かつての男社会では、「酒も甲斐性のうち」といった甘えを容認しました。それにも程度があります。災害時や不慮の事故では、救急患者が次々搬送される事態もあり得ます。招集がかかります。医師のPHSや携帯が生きる場面です。言うまでもなく、困難であればあるほど、仕事への覚悟と自覚が求められます。
∋ 前回の被害の際に、サッカー聖地が泣く、無法の背後には社会に潜む悪意や不寛容の空気が読み取れる-とつづりました。今回の”犯行”は、要するに「情けない」の一言です。これが、幼い大人たちの実像だとしたら、繰り返しますが、実に情けない。市が、医師を警察に告訴したのも当然と言うしかありません。
(鮟鱇)