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2005年「Webコラム一灯」

 沈黙する知性 戦無派の物思い(7完)

2005/08/22

  日本の政治史には多くのエポックがあり、政権をかけるような論争では、いわゆる国民的議論が展開されました。1960年の日米安保闘争では、デモ隊が国会を取り囲み女子大生死亡の衝撃がありました。学園紛争では、ほとんど例外なく日本の大学は洗礼を浴び、知の象徴である東大では、籠城学生と機動隊の間で激しい安田講堂攻防戦が展開され封鎖解除となりました。臨調行革、国鉄民営化ではさながら日本の知性総動員の趣で、賛否の勢力が火花を散らせました。

  メディアは百家争鳴状態ですから、世代を問わず市民は論争の様子を目にし耳にすることになりました。若者は、情熱の赴くままに議論に参集します。大学には、立て看板が林立し、アジテーション=扇動の文言が氾濫(はんらん)していました。政治参加を何らかの形で求められます。いわゆるノンポリも、我れ関せずと素通りできません。立証、反証のわざを磨く必要がありました。”政治の季節”が、断続的に訪れたのでした。

  戦後60年の節目に、日本の構造改革、イノベーションの”本丸”だとされる郵政民営化が政治勢力の応酬の焦点になったのですが、これが「国民的議論」になったかというと、かなり怪しい状況です。政策というよりは、政局の問題となり、自民党内の覇権争いの材料に矮小化(わいしょうか)していったからです。与野党の対決も課題を浮き彫りにすることなく、首相自身が、「倒閣運動だ」と決め付ける反小泉闘争ばかりが喧伝され、野党は自ら”埋没”をおそれるありさまです。

  知識人、文化人といったオピニオン・リーダーの寡黙が気になります。実は、小泉政権の誕生このかた、そんな印象を抱いていました。郵政? 知らんね、ということでしょうか。郵便は使わない、郵貯や簡保の世話にはならない-などという話ではなく、「時の政府に物申す」様子が希薄だったように思うのです。小泉政治、小泉手法に賛同してということでしょうか。それより、「語るに足らず」といった風情で無視を決め込んでいるのでは、と疑わせるのです。唯一、訪朝によって拉致問題が動いた時期に、国の主権・国民の安全をめぐる言論が相次いだのが記憶に残る程度です。

  成果のほどは別にして、ここ数年、さまざまなテーマが提示されてきました。行財政改革、道路公団問題、地方分権、日朝、対イラク政策と日米関係、靖国とアジア…いずれも、国家の姿、国民の生命・財産・暮らしにかかわる重いものばかりです。国会内はいざ知らず、論壇、文壇などで喧々囂々(けんけんごうごう)の場面がいかにも少ない。議論に疲弊していたとも思えないのに、です。議論の入り口が閉じられているようです。

  学園紛争の嵐が吹き荒れるころ、左右を問わず各勢力には理論的、精神的バックボーンとなる知識人がいたものでした。彼らの発言が、論争を刺激し、時には対立をあぶり出し、行動を促しましたから、社会の活力につながる側面がありました。そうした経験を経た世代が組織の中枢を占めるようになりました。先鋭な理論派、行動派も、エスタブリッシュメント(支配階級)に吸収されていったのでしょうが、それでも矛盾を憎み変革を志向する姿勢は温存されたはずでした。批判を成果や向上につなげるエネルギーが社会から消滅するとしたら、在野の知性はその責めのかなりの部分を負うべきです。

(鮟鱇)




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