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2005年「Webコラム一灯」

 本のにおい

2005/08/25

 ∋ 例年、デパートなどで開かれる古書まつりを楽しみにしてきました。先日も、「温故知新」などと書かれたポスターにひかれて出かけてきました。エスカレーターが特設会場のある階に近づくと、分かります。あの古本独特のにおいです。「新古書」もありますが、大半が多少はセピアに変色した書籍です。いかにも風雪を耐えてきたようで、それがいいのです。


 ∋ 古書市には当然ながら、希書珍本のたぐいが並びます。評価の定まった作家でも、個人全集などは最近では普通の書店ではあまりみられません。夏目漱石や芥川龍之介、宮沢賢治らの全作品を網羅したという”一冊まるごと--”といった本は魅力的です。価格からすれば随分得した気分になります。ただ最近は、どうも活字の小ささから億劫になってきました。内外の画家の作品集、美術展の図録などが出展されるのも古書市ならではです。


 ∋ 本の内容はもちろん、展示スペースの配分も、流行、ライフスタイルなど世相を反映します。戦後60年の今年は、やはり戦史・戦記ものなどが目につきました。これらを手にしていたのは、多くは中高年世代です。盆栽や俳画・俳句関連、水墨画の作品集や指導書が並ぶのは、趣味に時間を費やす読者層が増えているからでしょう。宗教書も豊富です。不安と閉塞の時代は確からしい、とつい気分が重くなります。手軽なカルチャーを求めるのか、いわゆるハウツーものが、分野を問わず出版されているのも分かります。


 ∋ 若者の活字離れに歯止めをかけることを主な狙いに、「文字・活字文化振興法」が成立しました。国や地方公共団体に図書館や学校での言語教育の充実を求めています。休日の図書館巡りを趣味にしていますが、無味乾燥にみえる背表紙を追っているだけでも飽きません。収蔵図書にもやはり、時代が映し出されるのです。司書の好みも関係するでしょうが、”市場原理”で、需要が供給を決めているのです。


 ∋ 公立図書館でも、例えば新書や社会科学の棚には、「イスラム」のタイトルが目立ちます。米国での9.11同時多発テロ以降、急速に関心が高まった分野です。ロンドンやエジプトでも、アルカイダとの関連が指摘されるテロが頻発しています。底辺にあるとされるパレスチナ問題、治安悪化が続くイラクやアフガンの情勢、イランの大統領交代、サウジアラビアの国王死去、これらがないまぜになった石油価格への懸念など、広義のイスラム問題に日本も無関心でいられないということでしょう。


 ∋ 出版不況が続いているようです。読書離れ、活字離れといった構造的問題と併せて、本が売れなくなった要因の一つに図書館の充実があると指摘されます。借りたり館内で読んで、購入しないで済ます利用者が増えているとも聞きます。確かにベストセラー小説や話題本などには予約が入っていることが多く、順番待ちに時間がかかります。引く手あまた、ということでしょう。


 ∋ 需要の多い図書館の書籍には、汚れも含めて利用者の「知の体験」の痕跡があります。それを想像しながら読む、追体験するような気分も捨てがたいものです。デジタル出版、デジタル図書の時代になりました。書籍は重いしスペースを求めます。百科事典がCD一枚に収録されてしまう便利なご時世ですが、内容はもちろんのこと本にはそれぞれの形とデザイン、重さとともに、著者や読者の”体温”があるように思うのです。実物を持ち運び、ページを繰って、時には中身を反芻(はんすう)する。この行為、プロセスが大切だと考えます。本の文化が死ぬ時、国が衰退することは間違いありません。出版を守るという視点から、図書館の受益者負担による基金の新設などの方法は考えられないものでしょうか。

(鮟鱇)




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