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2005年「Webコラム一灯」

 「地気」と芸術

2005/09/04

  「天霊地気(てんれいちき)」。日本の近代美術を開いた岡倉天心、横山大観を通じて、東洋美の神髄を表す言葉だそうです。その境地を目指して独自の芸術、創作に挑む現代書家、柿下木冠(ぼっかん)さんの躍動する筆づかいを間近でたん能する機会がありました。

 

  中川根町出身の柿下さんが、古里の国指定無形民俗文化財「鹿ん舞」、赤石太鼓に合わせ即興で制作するコラボ(協働)パフォーマンスです。酷暑の日中、川根高校の体育館で開かれた「書でふるさとを語る」。創作の現場をぜひ、という住民らが取り囲み、汗がしたたる”期待の空間”が形成されます。演舞、演奏を貫く”その場にしかない瞬間”を書ですくい取る作業には、「地」への思い入れが横溢しています。

 

  地気とは、「大地の精気、地から立ち上る気、その土地の気」(大辞泉)です。郷土芸能が、筆を手にした表現者の中で徐々にイメージを膨らませます。そして、文字へと凝縮してゆきます。「月光若鹿舞」「明石奔流」…と、巨大な和紙に大作を一気に書き上げました。

 

  会場で「ふるさととは」と問われ柿下さんは、「足の裏に感ずる石の感触」と比喩しました。「これを芸術の肥やしにしてゆきたい」と語るのが暗示的でした。伝統を継承する若者が奏でる太鼓演奏に、足でリズムをとります。高まる緊張。”その時”がぴたと訪れ、表現者を突き動かします。太筆に墨をふくませ、和紙の上をまるで踊るように駆けます。

 

  柿下さんは15歳で書と出会い、19歳で現代書の巨星山崎大抱に師事しました。今は「抱一会」の指導者です。会は、伝統的な書の技法に美術的な要素を取り入れた「象書」をテーマにし、書に「動き」の美をも追求しています。心象芸術としての造形書の可能性を広げる過程で、柿下さんは必然的に国際性、異分野との切磋琢磨に自らを駆り立てていったようです。

 

  この春には、静岡市出身のピアニスト長谷川さち子さんとの米国協働公演を成功させました。西洋の音と東洋の書のコラボレーションは、アトランタ市のエモリー大学舞台芸術スタジオ、ニューヨーク市のザンケルホール・カーネギーの観客を魅了し称賛を浴びたと伝えられました。エモリー大学で、ベートーベン、リストらクラシックの名曲に合わせて揮毫したのは、「壁」、「魂」、「望」などの文字だったそうです。

 

  表意文字には、深みや滋味があり、それ自体が語りかけます。美として昇華します。大きな和紙に浮かび上がる字体が息づいているように感じました。動きとか余白とかがいかに大事かを知らされた気がします。コラボで表現されたイメージ文字が、芸術の融合の可能性へと想像をかきたてます。柿下さんの言う「墨のにおう生活」で、表現を支えるのが「地気」というものなのでしょうか。その「気」の分配にあずかり、作品という成果を楽しめるのもまた、地方に在ることの喜びだと思います。

(鮟鱇)




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