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2005年「Webコラム一灯」

 ”盟主”の責任

2005/10/06

  プロ野球巨人の監督に、原辰徳さんが3シーズンぶりに復帰します。会見のもようをニュースで見て、つくづく”情”のひとだと思います。通算80敗の不振により詰め腹を切らされた前任者を思いやって「監督のつらさ、苦悩の気持ちを分かる」とかばいました。ここに至る原因の蓄積をあえて一言も口にしませんでした。

 

  必死に”業績向上”のために働いているそばで、自らのリストラを前提にした人事が、それも内部からでなく外部の報道を通して耳に入ってくる。モーレツ企業でもそうそうはない仕打ちでしょうが、「なに、グループ内の人事だ」と割り切る上層部の冷徹さを考えれば、これもありか、となるのでしょう。

 

  原さん自身も2年前、似た境遇に遭っていますが、それでも復帰の彼が掲げるのが「ジャイアンツ愛」、チームへの忠誠なのです。スポーツに限りません。企業や組織を支えるのが、こうした愚直な”愛”だと思います。仕事の現場には喜怒哀楽が交錯し、自分の信条に殉じようという”美学”があります。これなしでは、個人の総体としての組織の繁栄はおぼつきません。

 

  記憶しているシーンがあります。高校野球以来の原さんの無二の親友とされるパリーグの強打者を、巨人が迎え入れました。甲子園を沸かせた両者は既に明暗を分けていました。失意の彼の入団がかなったことについては、当時も花形選手の原さんが動いたのではないか、と憶測されました。本来の力量からすれば活躍ぶりが物足りない彼でしたが、ついに起死回生のホームランを放ちます。原さんは彼と抱き合い、確か目も潤んでいたのではなかったでしょうか。かつての同級生は恐らく、「原のために」打ったのです。スポーツ・シーンには、ひとの感情、感性がこもるドラマがひそんでいます。

 

  現役時代の原さんには、好機に凡打のイメージもありました。老舗巨人の4番、偉大な0Nが抜けた球界の盟主の内部でもスター中のスター。看板打者ゆえの悲哀をいやというほど味わったに違いありません。いまプロ野球は、ファン離れという深刻な危機にあります。人気を支えてきた巨人の極端な低迷、如実に現れる視聴率の現実。有力選手は、アスリートの夢を実現する場として米大リーグを目指します。一方で、100年構想を掲げるサッカーの隆盛。若い才能が野球に集まりにくくなったとも言われます。

 

  原さんは、全身全霊・全知全能をかけて戦い抜く、と宣言しました。彼に課されたのは巨人の再建でしょうが、実は球界の構造改革もかかるのです。彼1人にゆだねられるような甘い状況ではありません。フロントはもちろん、機構も含めて「何をなすべきか」を早急に分析すべきです。善意のひとの”愛”にすがっているだけでは済みません。幸い原さんが情熱を傾けたという少年野球の指導など、芽は出つつあります。ヒントは、グラウンドに見つけられるはずです。野球人がその愚直な努力を惜しまない姿を見せる時、ファンは共感を抱くのでしょう。

 

 (鮟鱇)




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