∋ 「最も優勝から遠ざかっていたチーム」だった千葉ロッテマリーンズがプロ野球パ・リーグを制しました。レギュラーシーズン1位のソフトバンクホークスと戦ったプレーオフ第2ステージは、いずれも先制されたチームが逆転で勝利を収める展開で、ファンの血をわかせました。「あと1人」の場面からホークスが息を吹き返した第3戦をはじめ、野球の醍醐味、魅力を再認識するのに十分な5試合でした。
∋ ロッテの優勝を伝えた18日の朝刊紙面には、バレンタイン監督の采配や選手操縦術を高く評価する記事が目立ちました。近年はBクラスの常連だったチームを、31年ぶりに優勝に導いたのですから当然です。その監督が「苦境に立たされても諦めない」「みんなが互いを信じ合って助ける」と評する選手たちが、プレーオフでもそれぞれに持ち味を発揮しました。
∋ 選手同士の信頼が相互に厚いことは、ビールかけの余韻も覚めやらない選手たちが生出演した、深夜のテレビ番組のインタビューでもうかがえました。攻守ともに「つなぎ」の野球。シーズンのチーム打率、得点、盗塁、防御率がリーグでトップ。10勝投手が6人。監督の言う「だれか1人に頼らない」チームであることは、年間成績も物語っています。文字通り「チーム一丸」となって、落合博満、伊良部秀輝といったスーパースターの在籍中にもなしえなかった快挙を果たしました。
∋ それにしても31年は長い、ということを、前回優勝時の1974年の出来事を調べてみて実感しました。政界では、ニクソン、田中角栄という日米のトップが、ともにマスコミに暴かれた疑惑を追及されて辞任した年です。春先にはフィリピン・ルバング島で、元日本兵・小野田寛郎さんが発見され、終戦から29年ぶりに日本に戻りました。石油危機のもと「便乗値上げ」「狂乱物価」「闇カルテル」といった言葉が世相をにぎわした年でもあります。
∋ 球界では、前年まで日本シリーズ9連覇を果たしていた巨人がセ・リーグ優勝を逃し、「400勝投手」金田正一監督率いる当時のロッテ・オリオンズは、星野仙一投手をエースに擁するドラゴンズと日本一を争いました。「ミスター・ジャイアンツ」だった長嶋茂雄選手が「巨人軍は永久に不滅」の名言とともに現役を引退した年であり、現在のロッテの抑えのエース・小林雅英選手や米大リーグで活躍する松井秀喜選手が生まれた年でもあります。まさしく、1つ世代が交代する、そんな時間の長さです。
∋ 経営的な問題がクローズアップされた昨季に続き、今季は人気にもはっきりと陰りが見え始めるなど、プロ野球界は今、冬の時代を迎えています。2リーグの存続そのものを問う声も、依然、くすぶっています。それまでの「常勝・巨人」を盟主とする堅牢な構図が崩れ、乱世の時代に突入した31年前の覇者が、いま再びリーグの頂点に立ったことは何かの暗示でしょうか。一つだけ確かなことは、ファンの支えなくしては、球界の再建も、発展も、あり得ないということです。
∋ 31年前、仙台市の宮城県営球場を本拠地にしていた当時のロッテは、狭いなどの理由で同球場を使用せず、東京で日本シリーズのホームゲームを戦いました。ナインがファンを26番目の選手と呼び、ビールかけの祝勝会場に「26」にちなんで260本のシャンパンを用意した千葉ロッテのバレンタイン監督は、優勝インタビューで「『世界一のファンが待つ千葉に戻る』という約束を果たせた」と胸を張りました。グラウンドに立つ選手、スタッフ、そしてフロントが、ファンを大切にする気持ちを忘れない限り、球界の将来を悲観することはないでしょう。日本シリーズは、やはり熱いファンを持つ「阪神」が相手です。
(鯔)