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2005年「Webコラム一灯」

 国をつくるということ

2005/10/21

  訪中の機会を得て、沿海部の数都市を中心に胎動・中国の一端を見てきました。国内の貧富の格差がつとに指摘されるように、内陸部と異なり豊かだとされる地域でした。殊に度肝を抜かれたのは、上海の浦東(ほとう)新区でした。以前の農業地帯が国策で都市開発されたといいます。東京のお台場、横浜の港みらい、研究学園都市のつくばをミックスしたような都市、といった印象を抱きました。

 

  最高実力者のトウ小平氏が1992年、広東省・深センの経済特区、上海などを視察し、経済面での改革・開放を呼びかける「南方講話(演説)」を行いました。21世紀の大国を目指す中国にとって、時代を画す重要事件で、民主化運動を戦車で弾圧した89年の天安門事件で冷え込んだ外国投資を呼び戻す大胆な経済政策でした。

 

  よく知られる「白猫でも黒猫でもネズミを捕るのがよい猫」という猫論は、トウ氏一流の実利主義でした。開発の立ち遅れた祖国を発展させるのに欠くべからざる発想は、社会主義市場経済への導火線となって、今日、「世界の工場」と驚異の目を向けられる成長へとつながってゆきます。つい先日発表された7-9月のGDP成長率も9.4%の高率でしたが、その急成長のシンボルが浦東新区なのです。

 

  短い滞在中、毎日目にする元(げん)紙幣の表面には、故毛沢東主席の肖像が刷り込まれています。建国の祖ですから当然ですが、中興の祖とみなされるトウ氏の肖像写真はおろか、ゆかりの資料なども街頭やホテルではみかけませんでした。あの歴史的な演説を新聞に掲載するにも、相当の気配りが必要だったという後日談を聞きました。

 

  上海市浦東新区人民政府の巨大なビルを見上げます。圧倒的な威容です。中国語に不案内のため正確な意味は分かりませんが、「……重要思想……推進中国特色社会主義大事業」といった文字が読めます。朱の垂れ幕は、多分、南方講話の指針を称揚、鼓舞するものでしょう。

 

  「浦東は上海の浦東でなく、中国の浦東である」という幹部の言葉、自信を裏打ちするように、国際空港からは時速430㌔で営業運転するリニア(磁気浮揚式鉄道)が走り、都心には世界でも有数の高層ビルが林立します。15年で農業地帯は一変したわけですが、指導的立場の人々は驚くほど率直に国内の格差、富の偏在を認めます。

 

  2200万人を超す入場を獲得して成功を収めた愛知万博は、2010年上海万博に引き継がれました。テーマは、”Better City Better Life”となにやら暗示的です。”均衡ある発展”を掲げて整備を進めるようです。改革・開放の総設計士と称されたトウ氏は、文化大革命などで3度失脚しながらそのつど不死鳥のごとくに蘇り、12億の国を動かし駆り立てる変革(南方講話)を演出しました。指導者の決断の重さ、すさまじさを今さらながら偲ぶとともに、建国のダイナミズムを想像します。

 

  上海市中心街の南京路は、まさに不夜城です。歩行者天国では、ロックの街頭演奏が耳をつんざき、外国人を交えた雑踏が、途切れることなくショーウィンドー越しに揺れます。少し外れた道路では、昼間、地面に額をこすりつけて物乞いをする中年の女性をバスの車中から見ました。彼女の髪が覆いかぶさりそうに、粗末な缶が置かれています。通りがかりの若者が貨幣を投げ入れてゆきます。乾いた金属音が聞こえました。メガロポリスが飲み込んだ地方からの出稼ぎは、100万人規模だと教えられました。恐らく、急成長に伴うひずみもあるでしょう。しかしそれも、数千年の歴史を持つ国の悠久の時からみれば、ほんの一瞬です。評価と審判を待つには、まだまだ時間が必要でしょう。

 


(鮟鱇)




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