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2005年「Webコラム一灯」

 書" 道"

2005/11/19

  先ごろ訪れた中国で、頻繁に目にしたのは、まさに大道芸よろしく道路に文字を書く光景でした。粗末なバケツに水を満たし、太い筆でアスファルトや敷き詰めた石に漢字を書いてゆくのです。縦方向へ後退するように筆を運び、それが数十㍍にもなることもありました。

 

  書家は、終始無言です。投げ銭が飛ぶわけでもありません。見学者も同様寡黙で、評論するのでもない。勝手に書く人がおり、勝手に眺める人がいるのです。墨の代わりが水ですから、書くさきから乾燥して文字は消えてゆきますが、意に介する気配はありません。興醒めなのは、外国人の観光客らです。恐らく、愛想のひとつでも期待するのでしょう。場の静寂をを乱すのです。

 

  さすが文字の国だと感心させられます。会話が不如意ですので、時々、筆談を試みたのでした。こちらのメモ帳に、意図を推量して書いてくれます。画数の多い難しい字、対応する日本の漢字が分からないような省略形を書き込みます。ワープロやパソコンの普及このかた、すっかり手書きの習慣を失った当方は、その巧みさに圧倒されるのです。

 

  「西レイ印社」という名前は、世界的に知られるようです。書と彫刻が一体となった金石篆刻(てんこく)を研究する印章学の学術団体と紹介されています。浙江省の省都、美しい古都で知られる杭州市の市場の裏手の路地にある立派な構えをのぞきました。色、硬度、手触りなどさまざまな石に、名を刻してあります。ガラスケースの中の展示に見とれてしまいます。印鑑の注文にも応じますが、容易にはさばききれないそうです。日本から人を介して依頼してくる例もあると聞きました。実用が、工芸の美に昇華していったことが分かります。

 

  晩秋の京都を駆け抜けていったブッシュ旋風でしたが、訪日に同行した大統領夫人のローラさんはつかの間、日本の神髄に触れたようです。市内の町家で、書道に親しんだと伝えられました。習字の基本が凝縮しているとされる「永」という字を自らしたためたそうです。世界のファーストレディが、日本の文化に興味と関心を寄せた意味は小さくないと思います。

 

  伊豆の観光都市・伊東市が、国の構造改革特区の認定に向けて、「書道教育特区」を申請しました。小学一、二年生を対象に「書」の勉強を通じて伝統文化になじむとともに、正しい姿勢で座り、落ち着いて考えるといった学習の基礎を指導する狙いだと報じられました。一、二年の教育課程に「書道科」を設けるとしています。

 

  「茶」にしても、学習とは「道」だとしています。香道というのも聞きます。心を静かにして、謙虚に、哲学的な境地から悟りに至ろうということなのでしょう。「書道」がこのように取り上げられるのは歓迎すべきことです。日本古来の価値観、美意識などがすたれ行く懸念が指摘されるからです。中国の歴史をしのばせる街中での書”道”を見て、そんな思いを強くしました。

(鮟鱇)




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