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2005年「Webコラム一灯」

 桜吹雪は拝めたか

2005/12/15

 ∋ 「遠山の金さん」は講談でよく知られた話です。“大岡越前”と並ぶテレビの時代劇シリーズで、子どもにも浸透しています。江戸町奉行、遠山左衛門尉が庶民の味方として悪党一味を懲らしめる、一種の法廷ドラマでしょう。勧善懲悪ものらしく、ストーリーはおよそ一定していますが、それがまた人気の源泉です。

 

  毎回、大団円は奉行所のお白洲(しらす)です。被害者、被告があいまみえる場で、いかにも鉄面皮の悪者は開き直り、証拠を出せ(という言葉だったかどうか)被害者に詰め寄ります。被害者は、金さんが知っている、彼がいれば、と窮するのです。すると、お奉行がやおら片肌脱いでみせます。「やかましいやい」というべらんめえ調の絶叫。そこには見事な桜吹雪の彫り物が…。事態をのみ込んで、一同が「へへえー」と平伏して一件落着します。

 

  遊び人の金さんこと遠山左衛門尉は、自らの入れ墨という“事実”、“証拠”を突きつけて言い逃れを封じるのです。金さんは、事件の現場、経緯を十分掌握しているから強い。弱者が追い込まれてゆく様子に、はらはらして見守る側のストレスは高じているのですが、お天道様は悪事を見逃しゃしない、俺が証拠そのものだと宣言します。

 

  総理の犯罪として政治史に残るロッキード事件以来、国会での証人喚問を何度も視聴してきました。いつもじれったい。隔靴掻痒(かっかそうよう)の不満が残りました。質問する議員は、テレビのカメラを意識してむやみに威勢よく、強圧的に証人を吊るし上げようとします。そこは心得た証人側、事前に想定問答集などで準備万端怠りありませんから、平気の平左です。「知らない」、「記憶にない」の常套句で切り抜けてしまうのです。大山鳴動…となり、結局は司直の手に解明がゆだねられます。

 

  “国民的関心”のただなかにある耐震強度偽装をめぐって衆院国土交通委員会の証人喚問が行われました。参考人同士の責任のなすり合いに終始した先の国会応酬は、消化不良そのものでした。今回は主役級がそろうし、何より偽証が許されない喚問ですから、新事実が引き出されるかもしれない。そんな期待で、終日、テレビにかじりつきました。が、攻める側の材料不足は明らかで、まるで暖簾(のれん)に腕押しでした。

 

  反省どころか、ふてぶてしいまでの証人の能弁も見慣れた光景です。プロが不正を見抜けないのはおかしい、などと説教調になる始末です。それでも彼らがぐっと詰まる場面がなかったわけではありません。幹部の部下の直筆だとされるメモをかざした追及に、表情が一変するのをカメラはとらえていました。“想定外”に遭遇した当惑、焦燥です。

 

  事実、あるいは事実らしさは、かように重いものです。つまり「証拠」は、どんな弁舌をも超えて雄弁なのです。真相の解明に役立ちます。質疑の技量がいかにすぐれていても、証拠の有する力にはとても及びません。追及者は、証拠をもって迫ってほしいのです。そのための調査能力を磨いて欲しいのです。

 

 ∋ 「金さん」のストーリーは、大いなるマンネリです。結末は分かっています。カリスマの導きで、カタルシス(心的浄化、つまり「すっきりした」という思い)に至るのです。その安堵感を、庶民は求めています。今回の偽装事件が、日本の精神風土にもたらした負の影響の深刻さを考えると、カタルシスは容易には訪れそうにありません。

(鮟鱇)




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