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2006年「Webコラム一灯」

 土俵の品格

2006/07/21

  大相撲名古屋場所も大詰め。星取表をつらつら眺めると、目が留まるのは、東前頭3枚目の露鵬の8日目が「■(不戦敗)」、9、10日目の両日は「や(休場)」になっていることです。7日目の15日にカメラマンに暴行する事件を起こし、日本相撲協会から異例の出場停止処分を受けていたのです。

 

  プロにとって、仕事の機会を剥奪されるのは重大な痛手ですが、もとはといえば、自らの不始末によるのですから、文句の言いようはありません。大関千代大海との対戦に敗れた後、にらみ合い、口論となり、腹いせに記者を殴るなど“切れた”といいます。厳しい処分は当然でした。

 

  最近の土俵が物足りないと思う好角家は少なくないでしょう。変化技などで勝敗はいやにあっけない割りに、にらみ合いは言うに及ばず肩をいからせたり、土俵をこぶしで叩いたり、花道で下がりを投げつけたり…と、テレビカメラを意識したかのような大袈裟なパフォーマンスばかり横行しています。名勝負が絶えて久しいだけに、余計目につくのです。

 

  とんだ“主役”になった露鵬の談話に「自分をコントロールできなかった」という部分がありました。ある意味で角界の現状を反映した言葉です。国技大相撲の魅力は、抑制と品格の美に集約されると思います。すぐに取っ組み合いを始める他の競技と異なり、長い仕切りを重ねる間に勝負への緊張と期待がじわじわと高まってきます。巨体がぶつかり合う場としては狭く丸い土俵。この神聖な舞台に上がる前から、礼節を要求されます。礼に始まり礼に終わる、そこが美しいのです。研ぎ澄まされた技がしのぎをけずる、危険でもある格闘技ゆえに伝統に培われた格式と自己抑制が必要です。

 

  外国人力士が上位を席捲する現状に、いらだちが募っているのは確かでしょうが、だからといって彼らが秩序の破壊者のように批判されるのは公平を欠きます。日本人がからきし弱く、殊に役力士の惨憺たる低迷が土俵の品格喪失につながっているのではないでしょうか。本来は角界の看板である大関が、カド番常習では、権威に対する畏敬の念を持てといっても、しょせん無理です。勝った力士に「大関は軽かった」などとコメントされるのです。相撲文化を危うくしているのは、真の美しい強さの欠落です。

 

  謹慎明けの露鵬は、土俵入りの際に罵声を覚悟していました。「お帰り」「がんばれ」という声が多いのが意外で、驚いたと語っていました。ファンの切ない気持ちがみえるようです。決して彼の暴力行為を容認したのではなく、土俵の充実へと、すがる思いなのです。ふがいない現状をなんとかできるなら、という心理だったのでしょう。

 

  土俵の低調の中で浮かび上がるのは、親方衆の指導力不足です。自分の現役時代の番付をいともあっさり超えてゆく成長盛りの弟子に何も言えないのではないか、と疑います。腫れ物にでもさわるような及び腰の“指導”で、国技の厳しさを伝承できるわけがありません。名力士には、体躯の大小かかわりなくオーラが漂っていたものです。大関が平幕ににらみ返されるようでは、権威も何もあったものではない。不世出の大横綱大鵬の一字をもらっているのでしょう、「露鵬」にその重さを徹底的に教え込むことから始めてほしいものです。権威などというと黴臭いでしょうか。品格と抑制の美の重要さを、日本人外国人の別なく弟子たちに、それこそ存在を賭けて説いてほしいのです。親方は、敬われて当然なのです。

(鮟鱇)




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