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2006年「Webコラム一灯」

遍在する“戦場” -情景06夏

2006/08/03

  派手な宣伝などなかったはずなのに、貸し出し中ばかりで鑑賞できなかったDVDをようやくレンタルショップで手にしました。2004年のドイツ作品「ヒトラー 最期の12日間」です。2時間半の大作は、1945年、既に敗色が決定的になりソビエト軍の砲撃にさらされるベルリンが舞台です。総統官邸の地下要塞で、ヒトラーは降伏を促す一部の声を無視して、無謀な抵抗に固執していました。

  戦況を知りながら直言しない取り巻きたちの卑屈な態度。独裁者は、激昂するかと思えば急に弱気になります。家族同然と思う者には、愛情こもる言葉をかけるなど、残忍さからはとても想像できない、妙に人間臭い表情をみせたりします。この地下要塞の閉鎖空間の異常な空気を、秘書の女性が観察しています。


  ヒトラーは結局、自死を選びますが、最期に至るまで誤謬を認めません。映画が描く人物には“国を救う”“国民のために”といった発想はなく、軍の生き残りだけを優先します。彼は、大虐殺でユダヤの人々を葬り去ろうとしました。ドイツ民族の生命も眼中になく、部下に対してそのことを口にします。“わが闘争”の実相が明かされます。

  北朝鮮が、国威発揚の「アリラン公演」を中止したという報道がありました。矛盾と謎に満ちた独裁国家で何かが起きていることが想像されます。3日の静岡新聞朝刊国際面には、韓国の非政府組織(NGO)の情報として、断片的に伝えられていた7月の豪雨による死亡・不明者が1万人に上り、130-150万人が被災したものとみられる、との記事が出ていました。金正日体制にとって不都合な情報は隠匿されるでしょうが、大量の餓死者が出た90年代よりも被害が拡大する可能性があると付記しています。

  貧者の核という言葉がありますが、民に窮乏や飢えを強いながら核開発に狂奔し、国際社会に牙をむく国は、大方が独裁体制です。密告と虐殺の恐怖国家、警察国家では、誤った政策であれ、異を唱えるのは命がけです。独裁者の非を正そうという行動は、死に結びつきます。この体制の産物がテポドンです。W杯で世界が熱狂している時を狙って、ミサイルを連射しました。窮乏にあえぐ民の目をそらし、対立国に要求をのませようとする狂った選択は、自らをさらなる窮地に追い込む効果しかありません。

  同じ国際面は、イスラエル軍がレバノン南部に地上部隊による大規模侵攻を行い、イスラム教シーア派民兵組織と激しい戦闘を展開していることを報じています。世界の火薬庫とされる中東の情勢は、私たちの暮らしに直結しています。1日からガソリン価格が大幅値上げされました。回りまわって、和菓子の価格まで上昇しているといいます。トイレ紙買い占めなど狂乱物価に苦しめられた石油ショックの記憶がよみがえってきます。

  海上自衛隊の一等海佐が、内部情報を持ち出したとされる事件にからんで、「ハニートラップ」という外来語が頻出しています。“蜜の罠”と訳し、女性との交際をねたに極秘情報をゆする手口です。スパイ映画を見るような印象です。それも冷戦時代によく使われた古典的なやり口ですが、太平楽の日本を舞台に、苛烈な情報戦が展開されている現実を浮き彫りにしたことは確かなようです。戦後は終わった、という表現がよく使われます。そうなのでしょうか。少なくとも戦争の残滓が、潜在か顕在かは別にして、遍在しているのです。今私たちが生きているこの時代に、です。

(鮟鱇)




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