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2006年「Webコラム一灯」

岡本太郎『明日の神話』 -情景06夏

2006/08/06

  今年は、「芸術は爆発だ」で知られる岡本太郎の没後10年に当たります。そのせいか、異端とされる画家の再評価が進み、特に若者の間で一種のブームになっていると聞きます。鑑賞者を圧する抽象の迫力。しかし、どこか不思議な温かさを内包していて、それが前向きなエネルギーを与えるような気がします。

 

  東京出張で、JR新橋駅から訪問先の建物に向かう途次、テレビ局ビルの地下2階に慌しく下りました。上方からは見えなかった巨大壁画が、庇の内側にありました。雨がそぼ降るスクエアで、「明日の神話」に会うことができました。炎の赤が強烈です。原色を自在に塗り込め、デフォルメした骨や目を描いています。中途半端な評論など拒む迫真性と、強いメッセージ性があります。

 

  岡本太郎といえば、大阪万博のシンボルだった「太陽の塔」を思い出します。もう30数年前です。“国際博覧会”の呼び声に誘われ、千里丘陵に向かったものです。塔の巨大さにはもちろん驚きましたが、一見奇抜にも見える体躯と“表情”は、諧謔やユーモアとともに、やはり明るい活力を発散し、成長と繁栄へと導かれつつある時代の空気にふさわしいと感じました。

 

  「明日の神話」は、縦5.5メートル、横30メートルにも及ぶ大作です。一時は行方不明になっていたのですが、2003年9月にメキシコシティーで発見され、修復が行われていました。レプリカを焼津市の文化センターで鑑賞したことがあります。ちょうど、米国の水爆実験に遭遇して被ばくした焼津港所属の漁船「第五福竜丸」の乗組員の数奇な半世紀をたどる新聞紙面企画を終えたころだったと記憶します。

 

  「明日の-」は、原水爆の惨劇を乗り越えようとする人間のエネルギーを描くため第五福竜丸をモチーフに68-69年にかけて制作されました。「太陽の塔」の時期と重なります。骸骨から炎がめらめらと燃え上がる。視線を凝らすと、大海にちっぽけな船が翻弄されています。第五福竜丸です。

 

 ∋ 遠洋まぐろ漁業の基地を出港した後、悲運に弄ばれた漁船の実物展示を何度か見ました。その小ささに不思議な思いを抱きました。これでよくもマーシャル諸島にまで、そして疾走する魚の王者を追ったものだ…。漁獲を求める強い意志はしかし、ビキニ事件で暗転します。

 

  いわれない中傷、政治の容赦ない波にもまれながらも、核廃絶と人間の尊厳を求める闘いに挑んだ元乗組員らを取り上げた企画は、「第五福竜丸 心の航跡」として04年春に出版されました。その表紙は、船首を正面から見上げた第五福竜丸の写真を中央に配しています。船は人間のようであり、その顔の“表情”は、核拡散競争のはざまに起きた悲劇を乗り越えてゆく不滅の意志を宣明しているかのごとくにみえます。

 

  船にまつわる人々の志を、修復なった巨大な壁画の中に、再度発見した思いです。自宅兼アトリエに建築された岡本太郎記念館のホームページをのぞいてみました。目に飛び込んできたのは、「ようこそ爆発空間へ!」という、これもはっとさせる案内でした。広島、長崎の原爆忌を迎えるこの時期、悪魔の爆弾に想を得た「明日の神話」の訴えは、ひと際鮮明です。

(鮟鱇)




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