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2006年「Webコラム一灯」

だもんで静岡おでん

2006/08/10

  32年ぶりの出場を果たした静岡商の甲子園初戦は会心の勝利でした。静岡県大会からテレビ観戦してきましたが、2年生左腕大野健介選手の快投ぶりには目をみはりました。ピンチでも堂々、笑顔まで見せるマウンド度胸に感心したものです。大舞台でも上がるどころか、強打を誇る八幡商打線を翻弄していました。

  試合後の大野投手が、球児あこがれの甲子園の印象を聞かれ、「焼きそばのにおいがする」と応じていました。高校野球の聖地と、いわゆるB級グルメの王座に輝く焼きそばの取り合わせがまことに絶妙でした。こちらもつい、遠い日の“夏”の記憶をたぐり寄せることになりました。

  夏休み、学校プールの近辺には露店がちらほら出ていました。最近はどうでしょうか。ポップコーンやフランクフルトソーセージなどが販売されているのかも知れません。昔は、型をくり抜く茶色の平たい飴、焼きとうもろこし、のしいかなどの強い香りが漂っていました。忘れてならないのが、おでんです。暑いさなかにほおばる串刺しのこんにゃくは、また格別でした。

  その静岡おでんが、全国区の話題になっています。「静岡おでんの会」が組織されて認知が進んでいます。ビール会社の新CMに取り上げられたことも、ブームに拍車をかけているようです。遠来の知人を案内するのに、あれこれ悩む必要がなくなりました。生しらす、桜えびのかき揚げ、そして静岡おでんのセットメニューが最近の定番です。結構喜ばれます。そもそも静岡おでんは、謎に満ちているのがいいのです。なぜ黒い煮汁か。だしを取る牛すじ、黒はんぺんなどの他地域にはみられない種も、薀蓄(うんちく)をかたむけるのには格好です。鰯のだし粉や青のりをかけるのは、初めての人にはスリリングですらあるようです。

  新潟県在住のルポライター新井由己さんも、度肝を抜かれた一人です。郷土料理からジャンクフードまで比較食文化の視点で取材しているとか。原付きバイクに寝袋積んでの日本全国おでん研究の過程で、静岡おでんに出会ってハマってしまったのでした。そのおでん探訪は、静岡新聞社刊の「だもんで静岡(しぞーか)おでん」に結実しました。第1章はおでんにまつわる10の秘密の“解明”です。この謎解きは、静岡の食文化の魅力に取り付かれてゆく旅でもありました。

  各地で地域固有のブランドを発掘、育てる試みが行われています。最近は、焼酎の緑茶割り「静岡割り」の話題もありました。食味や香りには、それぞれ思い出がついて回ります。新井さんは、「だもんで-」の「草薙球場のヒミツ」の項で、野球観戦のファンにとっておでんが格好の友であることを紹介しています。静岡商の大野投手が甲子園の記憶に刻んだ焼きそばのにおいも、ファンにとっての大事なブランドであるのでしょう。

(鮟鱇)




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