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2006年「Webコラム一灯」

 芹沢銈介の装丁本

2006/09/07

  型染の巨匠、静岡市の名誉市民芹沢銈介作品の魅力は、暮らしの素材をモチーフにしていることだと思います。抑制気味の色づかい、単純化した模様が、見れば見るほど味わい深いのです。素材に最も適した創作手法を繰り出す天才的なひらめきがひそんでいるように感じます。

 

  有名な「いろは文二曲屏風」は、「いろはにほへとち」、「りぬるをわかよた」、「れそつね……」と、行ごとに異なる色地の背景に平仮名を白く書き連ねたシンプルな図案ですが、全体を一つの構図として眺めると、滋味を感じさせる美しい画布のごとくに昇華しているのです。

 

  文字や植物、人物、風景など描かれる模様は多様です。これらを暖簾(のれん)、屏風、着物・帯、団扇(うちわ)、カレンダーなど日常の“道具”に着目して再現しているのですから、身近な美といえます。日常の中の美となると、そこに視線を凝らす“気付き”の問題でしょう。創作者は、余計に鋭い芸術性を要求されると想像します。

 

  出版事情に詳しい知人によると、デジタル化、IT化が浸透してパソコン、ケータイ(携帯電話)で小説を読む時代になりましたが、小説や随想、歌集や自分史を自費出版しようという需要は少しも衰えていないそうです。電子媒体を駆使して手軽に“言論・出版”活動をする一方、アナログの産物である書物、本をつくることにこだわる。なぜでしょう。本には、媒体としての機能とともに、知的製品だからこその“モノ”性があります。知的活動の軌跡を形にして残したい、できれば美しく残したいというのは当然の欲求です。

 

  静岡市立中央図書館で開催中の「芹沢銈介装丁展」をのぞいてきました。川端康成、武田泰淳、山本周五郎、海音寺潮五郎、今東光、寿岳文章らの本が、人間国宝でもあった稀代の工芸家の手になるとどう変容するか。本というモノ自体が、独立した芸術になっています。こうした書籍が粗末に扱われるはずはありません。

 

  活字文化、出版文化が衰亡の危機に瀕しているといわれます。国語振興による打開の議論もにぎやかです。本を慈しむ風潮がよみがえれば、多少とも危機は遠のくのではないでしょうか。図書館2階の会場には、芹沢が師事した柳宗悦の「蒐集物語」を装丁した作品も展示されていました。中央に紺の太い帯状の簡潔な模様があり、その上に梅、下部には竹、と植物が配されています。力がこもっている分、渋い美が存在感を形成しています。

(鮟鱇)




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