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2006年「Webコラム一灯」

 不寛容という病理

2006/09/22

  18日付けの静岡新聞朝刊「ヤンキー先生のきょういく論」で、「ゼロトレランス教育」の導入が検討されている現状が紹介されています。ゼロトレランス、つまり「寛容度ゼロの教育」のことだそうです。教育現場で、詳細な規範を明示し、違反した場合は例外なく処罰する指導方法と説明されています。

  「トレランス」には宗教的な意味合いが強いように覚えてきました。手元の英和辞典では、「他人の説、信仰などに対する寛容、寛大、認容」との訳が最初に出てきます。宗教弾圧という言葉がある通り、異教に対する不寛容はつとに問題視されてきました。信教の自由は、日本国憲法が保障する基本的人権の一つです。

  ローマ法王ベネディクト16世の発言が波紋を呼びました。母国ドイツの大学での講義で、イスラム教と暴力を結び付け、「暴力と神の本質は両立しない」と述べ、殊にジハード(聖戦)の概念を批判する趣旨だったと伝えられました。イスラム教の信者が多い各国で反発が噴出し、結局、法王は遺憾の意を表明しました。

  よく言われるように、熱心な信徒であればあるほど、“心のひだ”にかかわる信仰に触れられると、ナーバスになります。よほど慎重であるべきです。イスラム原理主義の過激勢力との関連が指摘されるテロをめぐる恐怖心に乗じて、“文明の衝突”を煽る動きが顕在化しているだけになおさらです。

  イスラム圏の国をいくつか訪れたことがあります。モスク(礼拝所)とミナレット(尖塔)を中心に構築された美しい都市景観、礼拝を呼びかけるアザーンの荘重な声、額に“祈りだこ”ができるほど習慣化した祈りは、街頭でも見られる光景です。敬虔な人々は、一方で愛嬌に富み、厳しい自然と対峙する中でも飄々と暮らしています。戒律や規範もさまざまで、実に多様な姿をみせ、よそ者が一律に論じられるものではありません。

  ところで、日本です。性急な決めつけ、排除の論理、問答無用の空気が最近の社会に蔓延しているように感じます。配慮を欠いた言葉が浮遊し、意を尽くした説明や説得は省かれます。価値観の押し付けが日常化し、対話不足からくる行き違いが増幅して、悲惨な事件を招来します。寒々とした人間関係が、親や子どもに凶器を向けることにつながります。自殺者は後を絶ちません。先進の成熟国家で、新たな“貧富”が深刻化し、格差社会をもたらしていると言われるのです。

  どこかおかしい、波長が狂っていると体感はしても、ではどうすれば、という処方箋が浮かばない。いわゆる「失われた10年」の混迷を経て、何を求められているのか。例えば、「隣保」という言葉を思い起こしてみます。社会の潤滑油、日本的な知恵の産物ではないでしょうか。そこでは、「tolerance(寛容)」が当たり前だったはずです。「intolerance(不寛容、偏狭、狭量)」の今こそ、古来の価値を見直す必要があるように思います。

(鮟鱇)




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