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2006年「Webコラム一灯」

 マニュアル敬語

2006/10/14

  アルバイトらしい若い店員のいる店では、業種を問わず入店と同時に「いらっしゃいませ、こんにちわ」の軽快な声で迎えられる。「いらっしゃいませ」と「こんにちわ」は、畳みかけるような連呼です。あまりにスピーディーかつ機械的で、何か有り難味に欠ける気がします。


  マニュアル敬語というようです。採用後、社内研修などで教則本を使った教育が行われるのでしょう。それにしても、あいさつにはT(時)P(場)O(状況)が問題ですから、例えば自宅で「いらっしゃいませ、こんにちわ」では、客人が恐れをなしてしまうに違いありません。


  敬語はつくづく難しいものです。オフィスで同僚らの電話応対を聞いていて疑問や不安に思うケースが多い、といった声をよく耳にします。言葉遣いはもちろん、声のトーンも、思いがけず不快感を与えたりすることがあります。電話口の相手に、「--さんはおりますか」とやる。頼みごとをしているらしい応答なのに、まるで詰問調に聞こえることも。本人は気付いていないのですが、わざわざ注意したり指導するのも憚られますし、勇気も必要です。社会全般が、敬語に自覚的になるしかないのです。


  そんな時、文化審議会国語分科会の敬語小委員会が、敬語の分類を細分化する指針案をまとめたという記事を目にしました。「尊敬・謙譲・丁寧」の三分類を、謙譲語を性質により二分類し、「お料理」など上品さを表す言葉を「美化語」として区別するなどが盛り込まれました。敬語の性質を厳密に分類することで使い方の混乱を防ぐ狙いのようです。具体的な場面を例示して解説しているのが特徴です。


  「伺う」「申し上げる」などは動作の対象となる相手への敬意を示す「謙譲語Ⅰ」、「申す」は自分の動作などを丁寧に表現している「謙譲語Ⅱ」といった具合ですが、必要性は理解しても、意識して使い分けることができるか、となると自信ありません。状況に応じて適切な敬語を用いるのは実に難しいのだとあらためて考えます。

 

  それよりどうかと思うのは、失礼な言葉遣いを注意される機会もなく、だから自覚もない子どもや若者が多いことです。「ため口」のもたらす不快感、さてどうしたものか。以前は、親から子、上司から部下、あるいは家庭の食卓などの場で、自然に教育がなされていたと記憶します。その根底には、相手を敬う気持ちがありました。敬うほどの人格を知らないからだ、などと反論されるとひるみますが、言葉を空疎にしないためには、気持ちがこもっていたかな、と振り返る謙虚さが欠かせません。その躾が求められているのです。マニュアル敬語を決して否定するのではありません。それはそれで、ビジネスの場などで潤滑油のような役割を果たすのでしょう。無難ですし、普及しやすいかも知れません。そこに、心の琴線に触れる真剣みをもたせるのは、やはり生活感のある敬語体験でしょう。……などと言いつつ、自分の言葉遣いを点検してみることにします。

 

(鮟鱇)




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