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2006年「Webコラム一灯」

 しら玉の歯にしみとほる…

2006/11/02

  遠い日のことです。重い瓶を手に、醤油を買いに酒屋に遣いに出されたものです。量り売りの時代です。味噌も売っていたように記憶します。店の奥に黒光りするような机が置かれ、コップや木の枡になみなみと注いで酒を飲んでいるおとながいました。あぶったするめや焼海苔を肴(さかな)にしています。禁断の場をのぞいた気分で、特に肴の旨そうにみえたことといったらありません。

 

  静岡県沼津市の千本松原の一角に、若山牧水記念館があります。酒をこよなく愛した旅の歌人は、周辺の風土にひかれて居を構え、この地で亡くなりました。「しら玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」。牧水が歌ったように、酒がうまい季節です。

 

  最近、熱燗をたしなむ人が減ったようです。冷酒、ひやがポピュラーになると同時に、女性も含め愛飲家の裾野が広がりました。居酒屋でも冷酒を前提に注文をとりにくる時勢です。燗をすると、においが鼻につくのだという声を耳にしますが、そうでしょうか。白身の魚の薄作り、なま牡蠣(かき)や海鼠(なまこ)など冬の味覚を生かすには、断然、燗酒です。ぬる燗でも熱燗でもいけます。鼻にくる、ぬくみがいいのです。

 

  と舌なめずりしていたら、酒造会社が日本酒の燗のつけ方を学ぶ通信講座を開講するという新聞記事が目に入りました。早速、ホームページを開きました。日本酒を温めて飲むという伝統的で文化的な習慣がなおざりにされている、と慨嘆しつつ、燗酒の美味な季節に、本当においしい飲みごろ温度や飲み方を伝授するとの趣旨をうたっています。

 

  開講の目的に、「食育」と家庭における父親の「晩酌習慣の復活」をも提案しているのがいかにも今風です。子どもの個食、孤食が問題化しており、晩酌の場を呼び戻すことにより家族で食卓を囲む機会を増やすのだといいます。確かに、悠然と盃をかたむける父親の傍らで、箸を運ぶ子どもが何かと語りかける、といった光景がかつては当たり前でした。ま、晩酌が過ぎてトラになっては困るのですが。

 

  講座では、上手なつけ方はもちろん、燗酒に合う料理などを記したテキストと、添削問題、質問用紙などとともに、点滅式温度計、アルミ製ちろり、陶磁器の徳利と盃などの補助教材もつくとあります。燗の道具にもこだわろうということでしょうか。銚子や猪口(ちょこ)が酒の味を引き立てるというのは想像できます。優秀な成績で修了した受講者には修了証書を発行して認定するそうです。

 

  酒は大勢でにぎやか、豪快に飲むもよし、ごく親しい友と盃をかわすのも、夫婦で差しつ差されつも風情があります。多様な飲み方があると同時に、和のマナーに徹底的にこだわるのも一興です。牧水が歌うように、しづかに飲むべかりけりも結構です。酒は文化です。そこに人の姿が表れます。だから、「飲酒運転ご法度」。申すまでもありませんが。

(鮟鱇)




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