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2006年「Webコラム一灯」

 舞台に見る小川国夫作品

2006/11/14

  静岡県藤枝市在住の作家・小川国夫氏の写真・映像記録を編集、制作中です。その過程で、駿河湾西岸の御前崎海岸の空撮写真を見た小川さんが感嘆の声を挙げたことがありました。白波が幾重にもなって海岸に打ち寄せています。この地方の風土の神髄を知る人には恐らく、心を揺さぶられる光景なのでしょう。

 

  「御前崎を散歩しながら、このあたりを舞台にして昔話を書きたいものだ、と思い立ちました」と、小川さんは、「遠つ海の物語」のあとがき(小沢書店刊小川国夫全集)に記しています。上方文化が果つる地とみなされていた“辺境”に展開される物語を書くことになったのは、「土地に誘惑された」からだというのです。

 

  それほどの思い入れのある風景とともに語られるのは、土地の漁師権太と、不幸な過去を背負って難破船でたどり着いた都の娘あみ姫の恋です。寓話の体裁をとりつつも、死と生の残酷な相克、死生観が散りばめられた奥深いストーリーになっています。漁師のいでたちをした年寄りはあみ姫に言います。海を愛することが幸福だ、権太をじっと見よ、彼こそは正真正銘の海の子なのだから……。

 

  小川さんはしばしば土地の言葉「母語」を聞け、と語ります。母語を聞き分ける耳が物語を生むという意味では、小川さんの芸術院会員就任記念の舞台公演の演目が「遠つ海の物語」で、作家が思索の道とする郷土の蓮華寺池公園の野外音楽堂が選ばれたのは、意義深いことです。

 

  演出を手がけたのは、若手の中でも評価の高い仲田恭子さんです。藤枝東高出身の仲田さんは、小川さんのはるか後輩にあたります。小川作品により芸術活動の刺激を受けてきた演出家は、以前、藤枝市役所近くの飽波神社を舞台に、川端康成賞受賞作の短編「逸民」の舞台化を試みました。彼女の意欲的な挑戦の背景に小川作品が投影されているのも、地元の人々にはうれしいことでしょう。

 

  2回の公演を、延べ700人が鑑賞しました。冷雨の中、合羽を着込んで寒さをしのぎます。夜のとばりに包まれた舞台で、若い俳優たちが方言を取り混ぜた台詞を感情を込めてぶつけ合います。あみ姫を恋慕し、鬼の形相となったさと兄ごが死の世界へ引っ張り込もうとする激しい演技は、舞台に緊張をもたらします。演劇ならではの迫力、観劇者との一体感が醸成されます。劇中、効果音として流れる波が寄せる音は、ストーリーの終わりの静穏を暗示していました。

 

  中央文壇とかかわりなく、郷土に在って執筆に取り組む小川さんは、開演前のあいさつで、「藤枝には100%感謝している。文士の本分として、原稿用紙と格闘することでお返しをしたい」と述べていました。いい宵でした。

(鮟鱇)




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