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2006年「Webコラム一灯」

 現代の哀しさ-石田徹也を鑑賞する

2006/11/22

  いわゆる「失われた10年」は、経済の低迷という文脈で語られるケースが多いのですが、日本人の精神世界に影を投げかけたという意味でも深刻だったと思います。モノに仮託して奇妙な楽観と無秩序が支配したバブル期を経て、価値を見出しにくい状況になりました。“失われた”時間の後遺症がじわじわと社会を蝕む。物質的な貧しさより始末が悪いようにみえます。


  よくもこれほどというくらい、残虐な事件が続発します。価値観や規範が瓦解するとともに、精神の荒廃が始まっているのかも知れません。動機の乏しい凶悪犯罪には、社会の息苦しさが反映しているといわれます。社会システムは負の側面、個人を押しつぶす管理という消極的な視点からしかとらえられないのでしょうか。


  怒りや悲しみといった振幅の大きな感情がみえず、逆にうつろな目が、日常にひそむ絶望を諦念とともに見つめているのでは、と思われます。スーツをきちんと着込んだ容姿の美しい若者が漂わせる寂寥が、“今”を語っているとすれば、やはり考え込まずにはいられません。

 

  「飛べなくなった人-異才・石田徹也、青春の自画像」展を静岡市の駿府博物館で見ました。ていねいに描かれた40点余の絵画に息をのみました。カンバスに存在する男性はみな同じ顔です。典型は、「囚人」と題された作品です。学校の建物の中に、巨大な人物が横に押し込まれて顔を出しています。グラウンドには、秩序を排するように人物が点々と配されています。建物の中のモデルといえば、あの目です。

 

  画家は静岡県焼津市に生まれ、武蔵野美術大学卒業後、アルバイトなどしながら創作活動に打ち込みました。10年間に180点を制作しましたが、31歳の若さで亡くなりました。現代美術にかかわる受賞も多く、早世の芸術家として多作でした。遺作が紹介されるようになると、若者の不安、悩み、やりきれなさなどをカンバスに再現した画家として注目を浴びるようになったとのことです。


  こんな言葉に集約してしまうのは乱暴だとは承知ですが、作品空間がはらむのは閉塞だと思います。遺作のそれぞれは、不条理を暗い諧謔で塗り込めた、時代の所産でしょう。あの目の見つめる先に何があるのか。絵の線、色、配置などより、その伝える意味にどうしても関心が向いてしまうのです。               

(鮟鱇)




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