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2006年「Webコラム一灯」

 故郷に聞け

2006/12/05

  静岡県藤枝市在住の作家・小川国夫氏は、自らの原風景だという大井川流域など故郷に近い駿河湾西岸の風土をこよなく愛しています。若い日、藤枝東高には近隣の町から生徒が集まってきていました。会話の中で、藤枝市はもちろん焼津市、大井川町などの言葉の微妙な差異を聞き分けたといいます。焼津言葉には、海の音が漂っていたといいますから、独特なリズムがあったのでしょう。


  小川さんはしばしば、自分が育った土地の言葉を、母語、母国語と表現します。母が使っていた言葉には、人間の存在、思想や風習、暮らしの姿が凝縮しています。母の言葉で創作すれば、人と風土について書こうとする素材を突き詰めてゆくことができるのだと想像します。小川さんは、故郷の言葉に聞け、とさりげなく説くのです。


  焼津市の焼津港から小川港にかけた地域で使われた漁師の言葉を「浜言葉」というそうですが、これをCDで残す試みが実現したと静岡新聞記事に出ていました。後世に伝えようと方言集として発行してきた冊子を一歩進めて、実際に浜言葉の会話場面を脚本化して「井戸端会議」を再現したり、登校時の子どものやりとり、民謡の合唱なども盛り込みました。


  「焼津の浜言葉を遺す会」の会員たちは、世代が代わって方言が途絶えるようなことになるのを懸念しています。CD版では、文字で知識として伝承するのとは異なる親密度で方言を体感できるでしょう。微妙なニュアンスも、音で聞き分けることが可能なはずです。一度、聞いてみたいものです。


  当サイトで好評をいただいている「遠州の方言考」は、一日一語で静岡県西部の遠州地方の地場の言葉を、意味や用例とともに紹介しています。一足先に掲載した「静岡の方言」とともに、歴史と風土がはぐくんできた身近な地域の言葉の保存に役立つものと期待しています。

 

  著者の浅井昂さんは、同じタイトルで遠州方言集を自費出版しました。市井の研究書として各方面から高い評価を得ました。ボランティアの文化振興に触発された人々が中心になって保存運動が広がり、居住地の浅羽地区の方言をCDとDVD化するプロジェクトへと発展してゆきました。町立図書館が発行元となった作品を送ってもらいました。方言はいいものだと、つくづく感じます。


  ネット社会は、言葉の荒野です。カタカナ翻訳語や絵文字などが氾濫して活字文化が衰退し、日本語が空洞化してゆくのでは、という危機論があります。一方で、方言が当サイトの人気コンテンツになっているように、純粋にローカルな土地の言葉が見直されているのも間違いありません。故郷に聞け、というのは、魂が求める必然の叫び、歴史が求める流れなのです。

(鮟鱇)




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