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2006年「Webコラム一灯」

 「和」の粋

2006/12/11

  端唄、小唄、俗曲(ぞうきょく)など、江戸から明治、大正時代に庶民がはぐくんだ三味線音楽を寄席で弾き唄う演芸者を「俗曲師」というそうです。最近、新聞などで何度か目にした俗曲師の話題の中心にいるのが桧山うめ吉さんです。日本髪にかんざし、着物の芸者姿が印象的です。

  彼女の文章を目にしました(12月4日付「電通報」)。芸者衆による「東(あづま)をどり」を新橋演舞場で見たのが、この道に入る契機でした。「和の世界の分かる日本人になりたい」という思いをばねに、突き進んできたといいます。庶民文化が急速に衰退する状況を憂える彼女にとって、懐かしい芸が脈々と生きている寄席は、江戸時代にタイムスリップできる場です。俗曲を彼女は、「江戸時代のJポップ」だと表現します。

  雑誌の広告を見ると、「和」という言葉が頻出します。国際化、グローバル化、情報化、IT電脳化が進む慌しい社会で、ゆったりした日本文化への希求、日本回帰の流れが出てくるのは当然だと思います。最も失いたくない日本の神髄が、さまざまな側面を有する「和」なのではないでしょうか。人の和、場所の和、趣味や習い事の和、食の和…。文字としても味わいがあります。

  団体旅行の低迷などレジャーの形態が変化する中で、伊豆観光地の苦戦が久しく伝えられてきました。旅館・ホテルの廃業や買収なども相次ぎました。国内有数の温泉観光都市熱海市の財政危機宣言は、それだけに衝撃的なニュースでした。その是非をめぐって地元は揺れているようです。

  改革に行政が手を尽くすべきなのは当然として、この地域には観光地らしい固有の資産はあります。芸妓文化はその象徴です。生かさない手はありません。セールスポイントとしてさらに強靭にしてゆけば、都市再生のかぎになるような気がします。

  熱海温泉の芸妓の公演「華の舞」の練習風景を鑑賞したことがあります。見番(けんばん)歌舞練場の舞台に、裾を引き扇を手に、芸者衆の踊りの列が回ります。流れるように、すべるように、あでやかな波が現出したかのごとくで、美しさに酔いました。みやびな雰囲気をさらに高める三味線の音が心地よいのですが、それも厳しい稽古の裏づけあってのことだと知りました。

  「粋(いき)」という価値があります。心の滋養には、垢抜けして上品な色気が欠かせませんが、一朝一夕に培われるものではありません。逆に、喪失はたやすいのです。奥深い粋の価値を絶やすわけにはゆきません。それなりのコストをかけて継承するなら、人々を引きつける磁力になることは間違いないと思います。

  伊東市では温泉宿を改修した観光・文化施設で開く「お座敷文化大学」が好評だと聞きます。外国人を対象にした、歌や踊りの芸妓文化を体験するモニター事業も好調なようです。長い歴史を経て開花した和の文化です。伝えてゆくのは容易でないでしょうが、この時代は、人々の関心を引く好機だとも言えます。

(鮟鱇)




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